97 『コートハウス』
一行は、裁判所に入った。
造りや雰囲気としては、サツキのいた世界の裁判所とおおざっぱなイメージは変わらないように見える。
ざっと百人は収容できるだろう。
裁判官は五人。
そのうち一人が裁判長を務める。
しかも、裁判長を含めた三人が宗教側についており、残る二人も宗教側の息がかからないように守ってきたに過ぎない。
こちらからの工作はない。
五人の合議制によって判決が出るため、戦いはかなり苦しくなる。
論理の正しさや事実であるかどうかで、判決が下されるわけではないからだ。
彼ら裁判官五人は高い位置に鎮座していた。
審問を受ける浮橋教授と話を促す審問官という人が中央の低い場所にいて、それを取り囲むように聴衆席がある。ここでの審問官は、検察官のようなものであろうか。
元々、サツキは裁判などの法律分野にはあまり詳しくなく、こうした裁判のシステムというものがわからない。特にこの世界のルールはまるで知らなかった。
加えて、これは宗教裁判。
一方通行の審議であり、異端審問というものだ。
すなわち魔女裁判である。
とにかく互いが己の正義を主張しそれを裁判官と裁判員が裁くのがサツキの知る一般的な裁判ならば、今日の裁判はいかに浮橋教授が地動説という事実を証明できるか、納得させられるかにかかっているし、納得できても裁判官が認めてくれるかどうかがそれ以上に重要であって、一般常識とされた宗教概念をひっくり返すのは並大抵ではないのである。
一般席についた士衛組。
席順では、ヒナはサツキとチナミに左右を挟まれている。本人が希望したわけではないが、自然とヒナを気遣っていたらこうなった。
ついでにいえば、サツキの左には玄内。
この手の分野を得意とはしないルカは後ろに下がっている。士衛組の総長としてサツキの参謀を自認するルカも、裁判に関するサポートはできない。
チナミの右にはナズナとリラがいて、クコたち残るメンバーは後ろの席についていた。
緊張するヒナの手を、チナミがぎゅっと握る。
「ヒナさん、やることはやったんです」
「だ、だよね」
今、ヒナの隣にはチナミもいる。そして、サツキがいる。
――今まで、たったひとりで重い扉を開けようと押し続けてた。あがいてた。扉は堅くて、大きくて、ビクともしなくて。でも、あの日突然サツキが現れて、いっしょにその扉を押してくれた。先生も後ろから力を貸してくれて。士衛組のみんなが支えてくれて、やっと開いたんだ。大丈夫。きっと大丈夫。
ヒナは、祈るように目を閉じて、自分に何度も言い聞かせる。
サツキが言った。
「さあ、開幕だ」
裁判が始まった。