95 『メイニータイムズ』
「よかったですね、ヒナさん」
クコに言われて、ヒナはアキとエミのあれが特殊な効果を持っていたことを思い出す。
「あいつらのあのおまじない、確か魔法だったわね」
「はい。アキさんの《ブイサイン》は勝利祈願、エミさんの《ピースサイン》は安全祈願の魔法です。勝負事に勝ちやすくなる勝利祈願と安全性が高まる安全祈願をいただいて、その上、一つ振るとその人に一ついいことが起きる《打出ノ小槌》も振っていただいたんです、きっと裁判はうまくいきますよ」
三つの魔法はすべてその日のうちに効果を得られる。特に《打出ノ小槌》はどんな幸運が訪れるかはわからないが、一日に一回使える。ただし、使えるのは一日に三人まで。その一回をヒナに使ってくれたのだ。
ヒナは二人の後ろ姿を見てつぶやく。
「二人にも感謝だわ。あとで、ちゃんとありがとうって伝えないと……て、あいつらの中で、あたしがサツキにお礼を言うって話になってなかった?」
「アキさんとエミさんみたいに、何度でもお礼は言ったっていいんじゃないでしょうか。わたしもそうですが、きっとヒナさんも、サツキ様には何回ありがとうを言っても足りないくらい、感謝してるでしょう?」
「ま、まあね」
「それなら、裁判で勝ったあとだけじゃなく、言いたくなったら言えばいいと思います」
笑顔のクコを見て、ヒナは鼻を鳴らした。
「ふ。そうね、そう思っておくわ」
おそらく、ヒナの知らないところでクコにはクコの苦労があった。
知っているだけでも、クコの苦労は推し量ることができる。
一国の王女がこうして旅をしているのだ。
それなりの理由があった。
要約すれば、国王である父が体調を崩した隙に、ブロッキニオ大臣という悪い大臣が国を乗っ取ろうとしていることに気づいて、クコは国を取り戻すため、アルブレア王国からひとり旅立った。そして、遠い晴和王国まで旅をして、世界樹の根元でサツキを召喚、その後、それからはサツキと仲間を集めて士衛組を結成し、ヒナも仲間に加わって共に旅をしてきた。旅の間にも、クコは両親がブロッキニオ大臣によってお城の地下に幽閉されたことを知ったり、妹のリラがクコを追って国を救うために旅立ったことを聞きながらもすれ違って出会うことができず、心配する日々も過ごしてきた。
まだ十四歳の少女が背負うにはあまりにも大きすぎるものだし、もっと言えばクコが旅立ったときには十三歳になったばかりだった。十四歳になったのもつい一週間前の話だ。
いくら明るくて心も強い少女だとわかっていても、サツキにどれだけ救われたか、ヒナにはわかる気がする。
ヒナは歩き出した。
「もう一度言っておくわ」
振り返って、
「クコ、ありがとう」
「はい。裁判、頑張ってくださいね」
うん、と答えてヒナは自室に戻っていった。
「そうね、何度でもありがとうって言うわ。裁判に勝たせてくれて、ありがとうって。父さんを助けてくれて、ありがとうって。あたしを救ってくれて、ありがとうって」