表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1227/1373

93 『プリビアスナイト』

 ヒナは星空を見つめていた視線を下げ、ロマンスジーノ城からの眺めに目を移す。


「どれも懐かしい。もうずっと前のことみたい。でも、昨日のことみたい」

「なんだかわかるよ。俺も、この世界に来てからのことは全部そんな感じだ」


 この異世界を、サツキは不思議な目で見ている。またそれ以上に、この異世界は、サツキの目には言葉では言い表せない面白い世界に映っていた。


「士衛組のみんなや、出会った人たちのおかげだな」

「うん」


 こくんとうなずき、ヒナは隣のサツキを見やる。


「なんだか、遅くなっちゃったね。ごめんね」

「いや。眠れなかったからいいさ」

「明日は早いんだし、もう寝たほうがいいよ。あたしの長話聞いて、ちょっとは眠くなった?」

「なるわけないだろ」


 と、サツキは小さく笑った。

 ヒナが苦笑を浮かべて、


「だ、だよねえ。でも、ここにいると冷えるよ」

「そうだな。部屋に戻るか」


 屋上から屋内に入って。

 廊下を歩き。

 部屋の前まで来た。


「それじゃあ、サツキ。また明日」

「うむ。明日、勝てるといいな」


 ヒナは笑顔で「うん」と答えて、部屋に入った。

 ドアを閉めて、ドアに背を預ける。


「ここまで、サツキとあんなに頑張ってきたんだもん。勝てるといいな。ううん、絶対勝つんだ」




 サツキも部屋に入った。

 ベッドに横になる。

 今までいっしょに旅をしてきて、初めてヒナの過去をちゃんと聞いた。そのどれもが印象に残って、サツキは眠れなかった。


 ――ヒナは、そんな旅をしてきたんだな……。俺がなんとかしてやりたいけど、裁判がどうなるのかはやってみないとわからない。


 宗教裁判。

 だから、簡単に勝てるものじゃない。

 いくら論理をそろえて挑んでも、おかしな角度からの追及や非難だってあるだろうし、結果はすでに裏で取り決められて決まっている。

 それを、当日の浮橋教授の言葉と、これまで集めてきた証拠でひっくり返せるかどうか。


 ――裁判官は買収されている。五人のうち三人はそうだった。しかもそのうち一人は裁判長。それはフウサイが調べてくれてわかっている。でも、残り二人には宗教側の手が回らないよう、こちらから裏で防衛網を張っておいた。さらに、すでに買収されている三人についても『ASTRA(アストラ)』の協力を得て働きかけている。


 これらの裏側を、ヒナは知らない。

 ヒナには報せていなかった。

 サツキが玄内とルカとフウサイの三人と内密に調査し、秘密裏に動いてきたことだ。

 だが、まだ買収された裁判官三人を切り崩せたわけじゃない。

 裁判長に至っては、『ASTRA(アストラ)』の力を借りても接触できなかった。

 基本が裁判官五人の多数決、つまり合議制であり、それによって裁判長が最終決定をする。裁判官は一般市民が選定されることもあって、特にテーマの知識に通じた人を呼ぶそうだ。サツキの世界とはルールが異なるかもしれない。今回の場合、二人の知識人が宗教側からの推薦によって選ばれているのだが、彼ら二人は地動説を反対するだろうし、残る裁判長には接触できていないのだから、今のままでは勝てるか怪しい。


 ――ヒナの話から考えると、根はだいぶ深い。このまま挑んで、勝てるだろうか……。


 常に『ASTRA(アストラ)』はなんらかの行動をしてくれているらしいけれど、風向きが変わったというところまでいかない。そのまま裁判をもう明日に控えている。


 ――こうなったら、もしもの場合……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ