92 『インベンタータートル』
サツキたち士衛組の仲間になったことで、ヒナは幼馴染みであるチナミとの再会も果たした。
だが、ヒナにとってのつながりはそれだけではなかった。
亀の姿をした二足歩行の存在が口を開く。
「おれは地質学も研究してた。だから天文学者の浮橋教授とも知り合いだったんだが、こうなったらおれも地動説証明に力を貸すぜ」
ダンディーな声だった。
なにも知らないヒナは大きな衝撃を受けていた。
「ひぃええぇ! カ、カ、カメがしゃべったああああああー!」
こんなに驚いたことはそうそうない。尻もちまでついてしまった。
「しし、しかも、お父さんと知り合い? カメと? えぇぇぇえ?」
サツキは頭を押さえた。
「確かに、フウサイは先生がしゃべってもノーリアクションだったけど、普通はこういう反応するよな」
「そうですね」
あはは……、とクコも上品な顔で苦笑いを浮かべる。
こんな姿になってしまった経緯をサツキが説明してくれる。
かいつまんで言えば、人助けをした折に呪い型の魔法が玄内に対して発動してしまい、それが姿を変える魔法だったということだ。
一応、この魔法世界において起こり得ないことじゃない。ヒナはふぅんと理解を示した。
「まあ、魔法だったらなんでもあり得るしね」
だが、この姿は奇妙奇天烈だ。目をぱちぱちさせながら全身を見て、
「それに、お父さんと知り合いだったなんてびっくりよ」
「あいつも言っていたが、おれの発明した望遠鏡を持ってるそうだな?」
「お父さんが天才発明家からもらったって言ってたけど、このカメだったのーっ!?」
天才発明家。
それは、『晴和の発明王』と呼ばれた異能の人。
あまりにもたくさんの異名を持つため、『万能の天才』とさえ称された。
名前は玄内。
何人に聞いて回っても『王都』で玄内を詳しく知る人はなく、幻のような存在だと思っていた。
それがサツキの仲間だとわかると、ますますこの数奇な縁に驚かざるを得ない。
「先生、もしくは玄内さんと呼びなさい」
キッとルカに鋭くにらまれて、ヒナはたじろぐ。年上だからか、背が高いからか、ちょっと怖い。腰に手をやり、胸を張って、冷静を取り繕った。
「わ、わかったわよ。で、あんたはだれ? ほかのみんなの紹介もまだじゃない?」
「私はルカよ」
ルカがヒナにも《絆創香》を貼ってくれた。ただし、貼り方がサツキのときのように優しくはない。ぐいぐい頬に押しつけられる。
「痛っ。で、でも、ありがとう。それで、あんたがクコだっけ?」
「はい。クコです」
「オレはバンジョー。料理バカって覚えてくれ」
「サツキ殿に仕える忍び、フウサイでござる」
「ナズナ、です」
クコ、バンジョー、フウサイ、ナズナも順番に自己紹介した。チナミは知り合いだからいいとして、これで全員の紹介が終わった。
「オッケー。全員覚えたわ」
ちなみに、浦浜ではまだ誘神湊と青葉莉良が仲間に加わっていない。二人とはこのときまでにニアミスしていたヒナだったが、それぞれ、ミナトとはガンダス共和国ゆきの船の中で出会い、リラとはタルサ共和国の港町マリノフで出会った。しかしこれはまた別の話。
さて。
ヒナは士衛組に加入し挨拶を済ませると、大急ぎで船のチケットを取りに行って、運良くサツキたちと同じ便の予約ができた。
そして翌日、浦浜を出航したのだった。
その後、ヒナはサツキと玄内と共に研究に励んだ。
異世界人の知識を持つサツキと、天才と呼ばれる玄内の知恵。
二人がいたおかげで、これまで進まなかった研究が進展してゆく。
歯車が噛み合ったように動き出し、いくつもの冒険を士衛組のみんなと乗り越えて。
再び……。
イストリア王国の首都、『永久の都』マノーラへと舞い戻った。




