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90 『シャイフレンド』

 浦浜に集まった仲間たちに、サツキは改めてヒナの紹介をした。


「名前を聞いて察した人もいると思う。ヒナのお父さんは浮橋博士だ。浮橋博士の唱えた地動説を証明するため、協力してほしい。よろしくお願いします」


 クコが真っ先に答える。


「もちろんです。けれど、ヒナさんの服もボロボロですね」


 サツキはヒナに視線を戻して、


「俺の帽子に入れればボロボロになった服を元の状態に戻せるが、このあと服を脱げる場所はないよな」

「あ、当たり前でしょっ」


 恥ずかしがって顔を赤くするヒナを見ても「だな」と冷静にうなずき、サツキは考える。サツキの帽子はアキとエミにもらった魔法道具になっており、帽子の中に入れると物を修復できるのだ。厳密に言えば、少し前の状態に戻せるのである。


「じゃあ、宿に来てもらってもいいのか」

「それなら、わたしの魔法道具を使ってください」


 クコが首に下げていたカードを胸元から引っ張り出す。カードについたボタンを押すと、カードがバッグに変わった。このボタンは《スモールボタン》といって、物を小型化できる魔法道具だった。クコは本来の大きさに戻ったバッグの中から、チューブ状の魔法道具を取り出す。


「《布つなぎ(クロスパテ)》です。修繕したい部分に塗れば、少し時間を置くだけで直ります。寝る前にでも塗っていただければ明日には元の状態で着られますよ」

「あ、ありがとう。使わせてもらうわ」


 ヒナはクコからパテを受け取る。

 金髪の青年・バンジョーは楽しそうだった。


「新しい仲間もめでたいし、サツキも無事でよかったぜ! 飯、食うか?」

「それはこれから食べに行くんじゃないですか」


 クコに言われてバンジョーも陽気に笑う。


「なっはっは! そうだったぜ!」


 バンジョーのことは、ヒナも『王都』で見て知っていた。詳しい人物像は知らないが、あっけらかんとした青年らしい。

 他の仲間に視線を巡らせると。

 ヒナは喜色を浮かべた。


「わぁ! チナミちゃん! なんでこんなところにいるの? 久しぶり!」


 ずっと会いたかった幼馴染み。

 この前の『王都』ではすれ違ってしまった親友。

 そのチナミがなぜか浦浜にいた。しかも、サツキの仲間になっていた。これにはヒナも驚きだ。

 そっぽを向いたまま、チナミは挨拶を返す。照れているのがわかる。チナミは昔から照れ屋なのだ。


「お久しぶりです。ヒナさん」

「なんだ? 知ってんのか?」

「え、いったい……」


 なんにも考えてなさそうなバンジョーはともかく、ヒナを不思議そうな目で見るクコに対して、


「なに?」


 ヒナはジト目で見返す。

 クコはぶんぶんと首を横に振った。


「いいえ」


 チナミを見て、ヒナは思い出す。


 ――チナミちゃんのお父さんが言ってたのって、このことだったのかな?


 将棋の達人で、『名人』と呼ばれているチナミの父。

 元幕府の指南番でもあり、先の先を読むことのできるチナミの父はこれを予測していたのかもしれない。


「おそらく、ヒナちゃんが向かう先のどこかで、チナミとは交錯できると思うよ。そのときは、チナミのことよろしくね」


 この言葉。


「? は、はい」


 と、そのときのヒナには意味がわからなかった。

 だが、向かう先が同じ浦浜なら、その先も西へと行くというのなら、どこかで交錯する可能性が高いとみていたのだろう。


「気をつけて」


 と言ったときのチナミの父は、笑顔だった。

 あの笑顔も、チナミのことを頼んだよという笑顔だったようにも思えた。

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