89 『アメイジングギルド』
サツキにとって、この魔法世界はとても不思議な世界だった。
サツキはこの魔法世界のことをクコに教えてもらったのだが。
その際、彼女の魔法《記憶伝達》で世界地図を見せてもらって驚いたものだった。
クコの《記憶伝達》は、クコが額に手を触れると、相手にクコの記憶を見せることができるものだ。
それよれば。
この世界は、サツキの世界とそっくりの世界地図であった。国の名前は当然異なっているし、地形なども微妙に異なる。
サツキが召喚された世界樹があるのは晴和王国という国で、江戸時代末期から明治時代初期の日本っぽい雰囲気がある。
対して、クコのアルブレア王国はイギリスの位置に相当する。
話を聞く限り、文化もサツキの世界の国と位置関係を照らし合わせたように酷似していて、国ごとの特色が濃い反面、言語はすべてサツキの知る日本語で通じてしまうという不思議さだった。
しかも文明レベルは世界的におおよそ江戸時代末期から明治時代初期くらいと言ってよく、魔法の存在によって科学の進歩が遅れる部分があるため、「地動説が未だ証明されていない」などといった現象が起こっている。
魔法そのものも不思議で興味深いのだが、サツキにとってはこうした常識や文明に関しても、この世界は不思議に感じられたのだ。
これだけ旅をしてきても、実はすべてが夢で、次に目を覚ましたら現実世界に戻っているかもしれないとさえ思うこともある。
しかしそれでも、サツキは今いるこの世界を全力で生きることにしていた。
自分に使命があってこの世界に喚ばれたのだから、ヒナに、
「どんなにボロボロになっても絶対に諦めないのはサツキもでしょ」
と言われても、それは物事を成すためには当然のことなのだ。
「俺が諦めたら俺がいる意味がなくなる。当然じゃないか」
「またそんなこと言って」
ヒナは呆れる。
「ちょっとくらい、気をつけなさいよね」
それから小声で、
「心配する身にもなれっての」
「ん? 最後、なんて言ったんだ?」
「なんでもないっ」
「そうか」
あまりにあっさりと流されるとそれもそれでシャクだが、もう一度口にしてサツキに説明するのは恥ずかしい。
サツキはヒナが望遠鏡を持っているのを見て、
「そういえば、ヒナはあのあとすぐに先生に会えたんだよな」
「ああ、そうだったわね。サツキの仲間になったと思ったら、すぐに会えたからね。あれには驚いたわ。だって、亀が立って歩いてしゃべるんだもん。しかもチナミちゃんもいるし」
浦浜で、ヒナがサツキの手を取ったあと。
ヒナはサツキに連れられ、士衛組の仲間が待つ場所へと行った。
そこには、懐かしい親友のチナミがいた。しかも士衛組の仲間として。
また、『万能の天才』玄内はとある事情で亀の姿になっており、背は小さいチナミよりもさらに小さいくらいになってしまい、しかし二足歩行できる。そんな玄内にヒナは驚いていた。
あれだけ探し続けても出会えなかった『晴和の発明王』が亀の姿になっていて、あまつさえサツキの仲間になっていて、サツキたちの先生になっているなんて、思いも寄らなかったのだ。
回想――浦浜でヒナがサツキたち士衛組の仲間に加わり、チナミや玄内たちと顔を合わせたときの話。
浦浜の砂浜からサツキと歩いて。
ヒナがサツキといっしょに士衛組の前にやってくると。
最初はヒナに構わず、クコとルカがこの日も傷だらけになっていたサツキの心配をしていた。
だが、ルカによる手当てが終わりホッとすると。
「あーっ! あのときのっ」
クコは驚き背をそらせ、口を押さえてヒナを見た。
何度か顔を合わせていたから、クコもヒナのことは覚えていたのだ。
ヒナがニコニコと明るい笑顔でみんなに挨拶する。
「はじめまして。あたし、浮橋陽奈です。今日から仲間になります。よろしくお願いします!」




