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87 『カレントミッドナイト』

 現在――。

 夜更け。

 晩夏の夜風は思いのほか涼しい。

 ヒナからこれまでの話を聞いて。

 サツキは夜空の星を見つめながらつぶやく。


「そんなことがあったんだな」

「ごめん、ちょっと長くなっちゃったね」


 いや、とサツキは首を横に振る。


「聞けてよかったよ」

「そう」

「うむ」


 うなずき、サツキは言った。


「どんなに辛い目に遭っても、否定されても、孤独でも、涙がこぼれても、答えが見つからなくても、どこまでもひたむきで、歩みを止めなくて、決して諦めない……すごいな。尊敬する」


 実際、ヒナはここまでの話の中で、サツキへの自分の感情や自分の弱気な気持ちなど、話すと恥ずかしい部分は割愛して語った。

 それでも情けない部分や行き詰まってサツキに助けてもらった話をしてきたのだが。

 ヒナに言わせれば。


「どんなにボロボロになっても絶対に諦めないのはサツキもでしょ」


 昨日は、『ゴールデンバディーズ杯』で何度も死にかけながらも優勝した。

 ただの大会での優勝に命を賭ける価値などないとヒナは思う。

 しかしサツキの考えは違っていた。

 ここで勝てば、サツキが局長を務める士衛組が有名になり評判になる。

 評価が上がる。

 そうなれば、その士衛組のメンバーであるヒナが、父の裁判に共に出席する際、市民感情や世論が味方につき大会優勝の実績が有利に働く。

 だからなにがなんでも勝ちたかった。

 サツキのそうした考えは論理的にはわかるのだが、命を賭けるのはやはりやり過ぎだとヒナは思うのだ。

 しかも、これまでの旅の中でもサツキは何度も命の危機に瀕しながらも戦ってきた。

 今日だって、マフィア・サヴェッリファミリー主導のマノーラ襲撃はサツキたちだけを狙ったものではなかった。

 サヴェッリファミリー対『ASTRA(アストラ)』。

 これがメインになる。

 実は、サヴェッリファミリーのバックにはアルブレア王国騎士や宗教側の存在もあった。だから見過ごせなかったのもあるが、彼らの表立った敵は『ASTRA(アストラ)』になる。

 そこに加えて、マノーラ騎士団もターゲットにされていた。マノーラという街を手に入れた時に、マノーラの警察組織であるマノーラ騎士団は邪魔になるから、排除しておきたいというわけだ。

 士衛組はといえば、混乱に乗じてその裏で始末する算段だったと思われる。世間にはサヴェッリファミリーとアルブレア王国騎士と宗教側のつながりも知られていないのだから、士衛組が率先して関わることはなかった。

 でも、サツキはアルブレア王国騎士団でルーン地方を統べる団長・ジェラルドを倒し、サヴェッリファミリーのボス・マルチャーノをも倒した。

 今日の戦いは学びでありアルブレア王国での決戦でもこの経験が活きるだろう、という思いも大いにあったかもしれない。

 けれど、やはりこのマノーラの街を守ったことは、明日のマノーラでの裁判で最も大きな効力を持つ。

 だから、サツキは全力で命を賭けて強大な敵と戦ったのだ。

 このたった二日間でサツキが何度死にかけたことか。

 ヒナが聞いていない部分で、ヒナが知らないところで、サツキは想像以上の危機にも立たされてきたと思う。これまでの旅の中でもそうだ。それなのに、サツキは平然としている。


「お人好しで正義感ばっかり強くて、そんなんじゃ死ぬわよ」

「仕方ないだろ。それが、俺がこの世界に()ばれた意味なんだから」


 それがサツキなのだ。

 だからこそ、どんなときも決して諦めないのはサツキも同じだった。

 いや、もしかしたらヒナ以上にサツキは諦めが悪いというか、諦めるという可能性すら考えないかもしれない。そもそも諦めるという選択肢がないのではなかろうか。

 そのくせ、


「正義感が強いのはヒナも同じだってことさ。どうせ、俺に出会う前から無茶ばかりして、大変な道を歩いてきたんだろ」


 とか妙にヒナのことを理解してくれることをさっきも言ってくれたのだ。

 不思議な少年だった。

 それもそのはず、サツキは別の世界からやってきたのだから、不思議じゃないはずがない。

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