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81 『トゥルース』

 サツキの要求は一つ。

 二分だけ、時間稼ぎすること。

 その間にサツキは力を溜めている。

 幸いにも、カナカイアは痛めつけることを主目的としているため、即殺をしない。

 だから、耐えればいい。

 切り傷は増えてゆくが、耐えていれば二分を達成できる。

 また足に痛みが走ったところで。


 ――……そろそろ、二分経ったよね。


 ヒナも目を閉じた。


「そろって目を閉じて、戦う気をなくしたか? やっと己の間違いに気づいたか? そりゃそうだ。オレが勝つに決まってるからだぁ! 死の前にたっぷり痛めつけるって言ったあれ、まだまだ終わってないぞ! 泣け! 叫べ! 苦しめ!」


 やかましいカナカイアの声を無視して、ヒナはうさぎの耳に神経を集める。


 ――こいつ、カナカイアっていったっけ。あんた、修業が足りないんじゃないの? それで、本気で音を消せてると思ってるの? あたしがちょっと集中すれば、その程度のかすかな足音、聞こえるってのよ! そして、あんたの軌道の計算だってできるんだから!


 ラナージャで戦った追っ手の女は、ちゃんと完全に音を消せていた。それに比べてこの物理学者は、音をスピードに変換するとか余計なことしているから、肝心な消音機能が不完全なのだ。

 わずかに聞こえる音を聞き分け、ヒナは鋭く言った。


「今よ!」

「はあああああぁっ!」


 合図を受け、サツキは弾き出されたような瞬発力で、真っ正面に向かって拳を突き出す。


「サツキ!」

「《(ほう)(おう)(けん)》!」


 集めた魔力を解放された。

 まっすぐ最速で放たれた正拳突きは、正面を横切ろうとしたカナカイアの顔面を直撃した。

 めりっと音がしそうなほどにクリーンヒットすると、


「ぃあああああああ!」


 カナカイアの長身は、数メートル吹っ飛ぶ。仰向けに倒れ、伸びてしまった。

 傷だらけで勝利したヒナとサツキを、周囲にいた人たちは拍手で讃えてくれた。

 事情はそれほどわかっていないのだろうが、見ていた人たちはヒナとサツキの味方になってくれていたようだ。


「すごいぞー」とか「かっこよかったぜ!」といった声援も送られている。


 サツキは数メートル先にいるカナカイアに、届くことのない声をかける。


「俺にあなたの真実はわからない。でも、本気で悔しかったら、こんなことしてる暇はないよな。きっと、まっすぐ地道に集めた論理たちが証明してくれる。科学の歴史に、地動説を記してくれる」

「……」


 ヒナはサツキの言葉を聞いて、カナカイアにぶつけたいと思っていた怒りが霧散していることに気づいた。もうカナカイアなんてどうでもよかった。


 ――サツキ……。


 一連の流れを見ていたらしい人たちの会話も聞こえてきた。


「結局、あの男の言ってることは本当だったのか?」

「そんなわけないだろう。逆恨みってやつさ。決めつけでばっかりしゃべってるんだもんよ。『決まってる』が口癖の学者なんて聞いたこともねえ」

「そうだな。議論の余地なくすぐ『だまれ』だもんよ。考えてみれば、なに一つ論理的なこと言ってなかったなあいつ」

「わたしもそう思ってたの。子供相手にナイフ振り回してる時点でまともじゃないわ。自分を律することもできない求道者だもんね」

「おれは腕を切られたけど、やっつけてくれてすっきりしたよ」


 カナカイアに腕を切られた青年もそんなことを言っていた。


 ――あっ、そうだ。


 いつまでもここにいたら、見ていた人たちに絡まれてしまう。

 彼らとは話さなくてもいいのだ。なぜなら、彼らはもうカナカイアの一方的な言い分など信じておらず、誤解を解く必要はないのだから。

 ヒナはサツキの手首をつかんだ。

 手を引いて走り出す。


「行くよ、サツキ」

「どこに……」

「人のいないところ! 話があるんだ!」


 ざわめく人並みをすり抜けて、通りを走る。


 ――今度こそ、ちゃんと伝える。あたしのこと全部打ち明ける。だから……サツキのこと、聞かせて?

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