表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1214/1267

80 『ミュートマフラー』

 フッと、カナカイアが姿を現した。

 場所はサツキたちの正面。

 手に収まったナイフを指でなぞり、眉の間に深いしわを寄せる。


「戦うだぁ!? そんなの無理なんだよおッ! オレの音を聞き取れないのも論理なんだからよ」


 またカナカイアは動き出す。

 姿は見えなくなった。

 動きながら、語りかけてくる。


「オレは元マノーラ騎士! 正義の騎士! 実力も認められたエリートだった! だが、オレは科学の道を選んだ! マノーラ騎士には智恵の足りない奴等が多かったから、オレの実力が理解されないこともしばしばで、それがストレスだったからな!」

「そんなのあんたに本当の実力がなかったからでしょ」

「今も痛めつけられて、オレのスピードを見て、それでもわからないのか? やはりおまえはつくづく頭が足りないな! オレは《ミュートマフラー》の魔法により、声以外のオレから発する音を消すことができる。しかもマフラーは空気を吐き出すごとに加速する。(うき)(はし)()()、おまえの魔法が音を聞く魔法だってのも運命がすり合わせた論理なのかもな。オレとは相性が最悪だぜ」


 カナカイアの挑発に、ヒナはひるまず言い返す。


「悪いわね。あたしは『()(がく)(もう)()』浮橋陽奈! 天才物理学者にして天才天文学者のお父さんの娘だから、運命なんて信じないの!」


 この騒ぎに注目していた観衆がざわざわし始める。


「あいつ、血のついたナイフを持ってたぞ」

「でも、それだけ怒ってるってことなのかもしれないわよ」

「どうだかな。あの男、まだ自分の都合しか言ってないぜ?」


 周りの囁きを、カナカイアは聞き分けた。そして、カナカイアの言動に疑念を抱いたような発言をした青年を切った。青年の腕には、ナイフにより大きな切り傷ができ、血が噴き出した。


「うああああ!」

「きゃぁっ!」

「な、なに!?」


 隣にいた人たちが戦慄しあわてふためく。もうカナカイアについての非難を口にする者もなくなる。ただ見守るだけになった。

 ヒナがサツキに言った。


「これ以上、あいつを好きにさせちゃいけない。あたしのせいで、他の人にも危害が……」

「だな。早く片をつけるぞ。でも、ヒナのせいじゃない。あいつの身勝手のせいだ」

「う、うん。だよね!」

「ヒナ。あいつの呼吸とか息づかいとかは聞こえるか? 目では追えないから、音で探れると助かるんだが……」

「そんなのいいんだよ。サツキ」

「?」


 もうわかった。

 なにをすれば良いのか。

 どうすれば勝てるのか。


「つまり、策はあるんだな」

「一つだけ。サツキ、あたしを信じてまっすぐ正面を攻撃して。あたしの合図に合わせて、まっすぐに」

「了解。俺は不器用だから、まっすぐは得意なんだ」


 すぅっと息を吐き出し、サツキは肩幅に足を開く。両手の拳をおろし、集中を始めた。


「ヒナ。あと二分だけ待ってくれ」

「わかった」


 カナカイアは挑発を続ける。


「どんな策があるって? あと二分だけで盤面をひっくり返すってか? だが、オレの移動を追えるわけがないのさ! 決まってる! オレが教えてやるよ、おまえらの死をもってな!」


 声と共に、サツキの足にまた切り傷ができる。

 ヒナの足首にも切り傷がつく。


 ――痛っ! でも、我慢! サツキの集中の邪魔をしないようにしなくちゃ。


 少しずつ、サツキの力が漲っているのがわかる。魔力が見えるわけでも計測できるわけでもないが、サツキは今、力を溜めているのだ。

 今度はサツキの腕にもさらに切り傷ができる。両腕両足、肩にまで切り傷ができて白い服には血が滲んでいる。

 そんな中でも、サツキは構わず目を閉じて集中力を高める。


 ――サツキ……なんて集中力なのよ。身体も傷つけられてるのに。助太刀したって利益なんてないのに。あたしの戦いなのに。でも、今ならわかるわ。サツキには、そうやってまっすぐに立ち向かうべき敵がいるんだよね。だから、そんなに気持ちが強いんだ。あたしも、足首の痛みなんてふりほどいて、サツキに教える! この《(うさぎ)(みみ)》を澄ませて、敵の位置を捕捉する!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ