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78 『カナカイアレイジ』

 敵対の目を向けてきた『()(がく)(きゅう)(どう)(しゃ)大楠金芥吾(オークス・カナカイア)

 彼が何者なのか、ヒナは記憶にない。

 相手もそれを承知で、開示した。


「ならば教えてやる。オレは物理学者だ。それも、おまえの父親とは旧知のな」

「お父さん……」


 父は天文学者であり、なおかつ物理学者でもあった。さらに数学者でもあるのだが、カナカイアが父と同じ物理学者であれば、旧知である可能性はある。

 しかも、マノーラでは知られていると言っていた。

 それにしても、今は天文学の分野で宗教裁判を控えている父だ。物理学者がこのタイミングで絡んでくる意味がヒナにはわからなかった。

 物理学での父の活躍は、ここ一年から二年では特別なものはなく、学院で教鞭を執るのがメインだった。

 ヒナは問うた。


「どういうこと? なによ、その敵対するような目」


 ただの知り合いの娘に向ける目じゃない。

 明らかな敵意。


「おまえの父親は本当にひどいやつさ。(うき)(はし)(あさ)()は、この世の常識をぶっ壊そうとしている。地動説なんか唱えて、世界をひっくり返そうとしてるのさ」

「違う! 地動説が正しい! 物理学者なら、今の天動説がおかしいことくらいわかるでしょ!」

「わかるかどうかじゃない。証明できていない。それがすべてじゃないか。あの浮橋朝陽って偽学者は、他人の研究を横取りするようなやつだ。そんなやつの言うことを信じられるわけがない。そうに決まってるだろ?」

「あんた、なにが言いたいわけ? 横取りってなんの話?」


 ヒナとカナカイアの言い合いを、周囲にいる人は何事かと聞いている。足を止める人もいれば、通り過ぎる人もいる。だが、観衆がいる以上、ヒナとしては負けるつもりはなかった。


「どうせ、あんたが研究してたことをお父さんが先に究明して発表しただけなんでしょ! そういうのを逆恨みっていうのよ!」

「だまれだまれだまれ!」


 大声でヒナの言葉を断ち切るように叫び、言葉を続ける。


「逆恨みなものか! オレのほうが先に研究していて、オレは必死にやった! なのに、なぜあいつが先に発表できるんだ? おかしいじゃないか! 横取りしたに決まってる! そうじゃないとつじつまが合わない! だからオレは偽学者のあいつのすべてが許せないんだ!」

「それを逆恨みだって言ってんでしょうが! 証明できてないとか言っておいて、あんたの言いがかりだって証明できてないじゃない!」

「だまれだまれだまれ! 後ろめたいやつはいつもそうやって屁理屈ばかり抜かしやがる! 裁判にかけられていい気味だと思ってたが、おまえが動いてることを知って、『()(がく)(きゅう)(どう)(しゃ)』たるオレがイストリア王国から取り締まりに来たんだ! また不正しないように! 地動説なんてデマをこの世界に広めないように!」


 いったい、だれがそんなことをカナカイアに教えたのだろうか。

 知りようがないのだ。

 となれば、ヒナを敵対している存在がカナカイアを焚きつけたことになる。

 すなわち宗教側の人間が吹き込んだということ。

 そこまで思い至ったところで、カナカイアはヒナが言い返さないとみて、目を血走らせながらナイフを取り出した。


「だから、科学の歴史に禍根を残さないよう、おまえを始末する! ジリジリとたっぷり痛めつけてからな! オレは元マノーラ騎士、腕には覚えがある! ゆえに、おまえを絶対にイストリア王国へは行かせない! おまえはこの世から消えなきゃいけないって決まってんだよ!」


 カナカイアはナイフを閃かせて駆け出した。

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