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77 『ターゲットヒナ』

 二人は無言で歩いていた。

 前を歩くサツキを、ヒナはチラチラ見る。


「いろいろ話したいことはあるが、歩きながらというものなんだし、人が透くなってきてからにしよう」


 足を緩めてヒナの横に並ぶと、サツキはそう言った。

 ヒナは黙ってうなずく。

 隣に来られると、あんまりサツキをチラチラと見るのはしにくくなる。

 だから、ヒナはサツキのことが気になっていても、すれ違う名も知らぬ人たちを見ていた。

 夕焼け色が混じった光を吸った街並みを、たくさんの人が通り抜けてゆく。


「オレンジ色に輝く街は、人も多いわね」

「?」


 サツキはヒナを横目に見た。

 だが、サツキはあえてなにも言わなかった。

 独り言だと思ったのだろう。

 実際にも、独り言だった。

 その続きは口にせず、心の中でぼやく。


 ――この時間のこういう街って、なんだか綺麗すぎて嫌い。みんな、幸せそうに見えるから。


 特に、父親と娘が仲良く歩いているのは見ていられない。

 思い出すには、父と晴和王国で過ごした幼い頃の記憶。


「オレンジ色の町ってキレイでいいね」


 ヒナがそう言うと、父は難しい言葉を使ったものだ。


「そうだね。綺麗だ。オレンジ色に輝く街は、一瞬の煌めきを放ってるね。だから、その一瞬を見るために、人は外に出ているのかもね」

「きらめき?」

「キレイだから見に来たのかなって、お父さんは思ったんだよ」

「あたしもそう思う」

「ヒナ。このあたたかい色を見ると、優しい気持ちになれるだろう?」

「うん!」


 そうやって、二人で手をつないで歩いた。

 なんでもない会話でしかない、ささやかな思い出だ。

 今、このオレンジ色に輝く街を歩くみんなが幸せそうに見えるのは、かつての自分が父と二人で見たあの色を、幸せな気持ちで見ていたからかもしれない。

 それに比べて今は、眩しすぎる。

 目を覆いたくなるほどだ。

 少し歩くと、橋に差しかかった。

 『(おや)()(ばし)』という名の橋で、古い橋のようだが随分と丈夫で立派なものであった。

 ちょうどそこで。

 後ろから声がかかる。


「見つけたぞ。(うき)(はし)()()

「なに? また騎士だっていうの?」


 苛立ち混じりにヒナが振り返る。

 サツキも振り返った。

 立っていたのは、長身の貴族服のようなかっこうの西洋人で、アルブレア王国騎士なのかは判別できない。年は四十歳くらい。メガネと細長い顔は理知的というより独善的な感じがして、医者や教師というより技師や研究者といった雰囲気がある。目立つのは、温かくなってきた春先に似合わない大きくて長くて厚っこいマフラー。

 彼は本当に騎士だろうか。


 ――違う。アルブレア王国騎士ならあたしの名前なんて呼ばない。サツキを狙ってるんだもん。つまりこいつは、あたしの敵……!


 急に、全身に緊張が走った。

 西洋人は名乗った。


「オレの名前は大楠金芥吾(オークス・カナカイア)。『()(がく)(きゅう)(どう)(しゃ)』カナカイアといえば、イストリア王国マノーラじゃちっとは知られてる。といっても、おまえはオレのことなど知らないだろうな。そうに決まってる」


 やはり、カナカイアの目に入っているのもヒナだけだった。

 ヒナは跳ね返すように言った。


「知らないわよ。なんなの?」

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