73 『フォローウィングワンアナザー』
ヒナは建物の上に飛び乗る。
――変なフォルムだけど、自転車は自転車よね。自転車相手なら、高いところに逃げればいい!
パンダのおもちゃみたいなデザインの奇抜な自転車だが、機能は普通の自転車と変わらない。
そう思って高いところにジャンプすると。
自転車も飛び乗ってきた。
「うそでしょ!?」
「逃がさないアル!」
「ごめんなさいごめんなさい! 悪気はなかったんですー!」
「普段ならいざ知らず、今日はくノ一のガキのせいでむしゃくしゃしてるアル!」
「は? くノ一?」
さっきもそんなこと言っていた。
――くノ一ってなに? 忍者までいるの? 城那皐! こんな危険な騎士たちを町に呼び込んでくれちゃって、あとで文句言ってやる!
ヤーバルというチャイナ服の女。
彼女の自転車の運転テクニックはたいしたもので、ちょっと高さの屋根くらい平気で上ってくる。
こうなれば、作戦を変更せざるを得ない。
――一応、このヤーバルって女、高いところに上るのが得意ってわけじゃない。高低差を利用されるのは好きじゃないっぽい。あとは、車体の構造上、狭いところは苦手なはず。通れない場所もあるはず。その二つを織り交ぜて翻弄する!
ヒナは建物の上に飛び移ったり、狭い道に入ったりしながら、ヤーバルから逃げる。
向かうのは、サツキが歩いて行った方角。
何度も高いところに上っては下りて、狭い道に入り込んで。
十五分もしたら、ヤーバルを巻くことができた。
しかし、サツキが歩いて行った方角がどっちなのかわからなくなってしまった。
それでもとどまってはいられない。
歩き続ける。
「ここはどこぉ?」
頼りない声で漏らした。
「まずは船の案内所のほうへ戻らないとよね」
船の案内所へ行けば、いつかはサツキに会える。
なんなら、サツキがどの船に乗るのか聞き出して、同じ船の予約をしてもいい。教えてくれるかは怪しいが。
とにかく、港のあるほうへ行くことにした。
すると、声が聞こえてきた。
「あれ? この声、聞き覚えあったような……」
その声が近づいてくる。
声の主は二人。
「おまえも災難だったよな。安直に飛び込むからびしょ濡れになるんだぜ?」
「でも、あいつが飛んだからよ」
「ああ。飛んでたな」
「ウサギみたいに、びょーんってよ。しかもほら、あんな風に頭にはウサギの耳までつけ……て? お?」
「おお?」
「おお!」
「うおお!」
「あいつだ!」
「見つけたぞ!」
会話の内容、声によって、ヒナはやっと相手を特定できた。しかも、自分を指差している。ヒナも思わず会話をしていた二人組を指差す。
「あの変な騎士二人組!」
すぐさま、ヒナはダッシュする。
「逃げたぞ」
「追え!」
ヒナは、急に方向転換したせいで一度つんのめるが、すぐに持ち直して、再びダッシュする。
「やっと自転車女を振り切ったと思ったのにぃー!」
一度振り返り、相手との距離を確認しながら角を曲がる。急カーブになったせいで、足がもつれて絡まり、顔面を壁にぶつけてしまう。痛みも忘れてまた走る。
「なんでこうも厄介事に巻き込まれなくちゃならないのよ!」