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71 『カムアクロス』

 浦浜のどこかを漂う屋形船。

 その屋根の上で、ヒナは息を整えていた。


「ふう。やっと休める」


 追っ手を巻いたおかげで、休憩できる。


「はぁ……はぁ……そもそも、関係ないあたしが追われてることがおかしいのよ。あいつらも、自分の敵くらいちゃんと把握しておきなさいよね」


 足もさする。

 なるべく疲れを溜めないように旅をしてきて、いざというときに逃げられるよう体力を温存していたが、ここで使うことになろうとは。しかも、本当は関係ない相手から逃げるために。

 ゆっくり息を吸って、吐く。


「呼吸は……ちょっと、落ち着いてきた。でも……足の疲れは、もう少しかかりそうね」


 逃げ回って、全力でジャンプして。

 それで疲弊した足は回復に時間を要する。

 ただ、船の上だから休むことはできるのが不幸中の幸いだった。

 気持ちも落ち着いてきて、ヒナは思い返す。

 さっき考えていたことの続きを……。


「確か、まず、とにかくサツキは今この浦浜にいる可能性があって……でも、サツキが狙われてて、そのせいであたしもアルブレア王国騎士に追われる羽目になった。元はと言えば、それはおそらくクコのせい。クコはアルブレア王国の王女なのに、なぜか追われる身だから……で、なんだっけ? そう思った理由は……」


 情報を整理しようとしていたそのとき――

 ヒナは、耳を塞いだ。

 カチューシャのうさぎ耳を、ぎゅっと握る。


「なんて騒音よ。やめなさいよね、まったく」


 しかし、周囲のだれもこの音が聞こえていない。

 船から見える景色の中で、この音に対してなんらかのリアクションをしている人は一人もいない。

 音が止み、耳から手を離す。


「やっと静まった。超音波かしら……」


 本来ならば届くはずのない遠距離で拡散された超音波。

 超音波は、普通の人間の可聴領域を超えた振動数を持った音だ。

 常人の百倍の音を聞き取れるヒナには、超音波すらちゃんと音として聞こえてしまうのである。

 強烈な超音波のストレスから解放されて、ヒナは脱力した。


「で、この船の行き先はどこだっていうの? ここから船の中に降りていくのも無賃乗船みたいで気が引けるし……」


 腕組みして考えていると、視界の端に、とある少年の姿を見つける。


「……あれって!」


 それは、ヒナが探していた少年・(しろ)()(さつき)だった。


「城那皐よね?」


 やっぱり、サツキは今この浦浜にいたのだ。

 おみくじにもあったように、急がなくてもよかった。

 海沿いの道を歩いている。隣には何度か見かけたことのある長身長髪の少女がいるが、そんなのはヒナには関係ない。

 やっと見つけたサツキに、ヒナは口元がにやけそうになって、それに気づいて表情と気持ちを引き締める。


 ――そうだ。早く声かけないと!


 ヒナは立ち上がり、口に両手を添えて叫んだ。


「ちょっと待ちなさーい! 城那皐ぃー!」

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