70 『リンクアルブレア』
ヒナは二人の騎士から逃げ回る。
町中を爆走しながら考えていた。
――どういうこと? なんであたしを狙うの?
必死に思い出す。
――ええっと……アルブレア王国騎士とか言ってたっけ? ちょうどあたしが聞いてなかった会話の中で、そんなこと言ってたような……。
アルブレア王国騎士。
それを知らないヒナではない。
――もし本当にアルブレア王国騎士なら、あいつらはアルブレア王国からなんらかの使命を帯びて、はるばる晴和王国まで来たってことよね。
晴和王国とアルブレア王国はだいぶ離れている。
ルーンマギア大陸を挟んで、東に晴和王国、西にアルブレア王国があるのだ。
そんな遠くから、一体どんな任務で来たというのか。
――最初はあたしを付け狙う追っ手かと思ったけど、別のやつを追ってたってことになるわ。しかも、その別のやつってのが城那皐で……あっ!
ここまで考えて、ぴたっとつながった。
不意に思い出したことがあった。
――サツキといっしょにいたあのクコって女、ブロッキニオ大臣派の追っ手とか言ってた。あの時はブロッキニオ大臣って名前もどこかで聞いたことあるくらいにしか思わなかったけど、アルブレア王国の大臣だったわ。
アルブレア王国のブロッキニオ大臣。
評判はあまり良くないと思ったが、能力はある人だとは言われている。
――つまり、クコはブロッキニオ大臣派の追っ手に狙われる身。それは、クコがアルブレア王国と敵対してるってこと。え?
また急につながる点があった。
――待って。そもそも、クコって名前……アルブレア王国の王女の名前といっしょじゃない! じゃあ、クコはアルブレア王国の王女ってこと? それなのに、大臣に狙われてるってこと? どういうこと?
じっくり考えていたらつながらなかったような情報が、走りながらの切羽詰まった状況では、なぜか不思議と結びついて思考を深めてゆく。
ショック療法でいろんな情報を一度に思い出しているかのような気分だ。
――えーっと、それなら、サツキはどうしてクコの仲間になってるの? 仲間も増えてたわよね? さっきの会話でも、あたしが聞いてなかったところで、何人か呼び名があったような……。
ヒナはぎゅっと目を閉じる。
――あーもう! ゆっくり考えさせてよ! ていうか、さっきの話から察するに、サツキが主犯格として追われてる? で、一番大事なのは……今、サツキはこの浦浜にいるかもしれないってこと!?
そこまで思い至ったところで。
道の先に、橋が見えた。
後ろの音を聞き分けても、一向に距離が開かないのがわかる。
このままじゃ埒が明かない。
――なんなのよ、あいつら。
しつこい。
その上、ヒナを敵だと勘違いしているのが最大の問題だ。
橋の先に目をやると。
――あ! 船がある! 飛び乗るっきゃない!
飛び乗るつもりで、ヒナは勢いをつけた。
「たあああああ!」
ぴょーんと跳ねて、橋から飛び降りる。
――まさか、あたしが船に飛び移るなんて思ってないでしょ!? どうよ!
背中の音を聞く。
足音は弱まらない。
――うそ!? あいつらも飛ぶの? でも、あたしだってギリギリ!
飛び移れるか。
半々といったところだ。
「いっけー!」
「逃がすなー!」
追いかける二人の騎士の声がすると、二人の足音も消えた。二人もいっしょになって飛んだのである。
「届けぇぇー!」
ヒナは空中で足をばたつかせ、走るように動かし、なんとか屋形船の屋根に着地する。
勢いがついたせいで、おでこを屋根にバチンとぶつけた。
「うげ! いてて」
着地は成功。
ギリギリで届いた。
両手を屋根につけて振り返った。
「あいつらは?」
遅れて飛んだ騎士二人組は、橋から遠ざかる船には距離が届かず、それでも空中で両手両足をくるくる回転させて粘る。
「ホラホラホラホラホラホラホラホラホラ! ホラァァ!」
「届かんかァァァァー!」
だが、あと一歩が届かない。
二人がそろって「あぁーれぇー!」と叫んで落下した。
ザブーン! と大きな水しぶきを上げる。
ヒナは真っ赤になったおでこをさすりながら、
「べーっだ!」
あっかんべえを決めて勝ち誇った。
「どんなもんよ!」
しかし、不安がよぎる。
「あれ? でもこの船、どこに行くの……?」