69 『ゲットエンタングル』
ヒナはうさぎ耳のカチューシャをピンと立てていた。
《兎ノ耳》の効果を高めているのだ。
これによって音を拾う。
その中に、サツキの声がないか、サツキの仲間の声がしないか、敵が近くにいないか、それを聞き分けるためだった。
だが、今のところはなんにもない。
「宇宙科学館までは、もう少しかな」
看板がある。
あと百メートルも歩けば辿り着く。
――なにか手がかりがあればいいけど。まあ、そうじゃなくても見るだけでおもしろそうよね。
半分は本気で、もう半分は趣味で、ヒナは宇宙科学館に向かっていた。
そしてやってきた宇宙科学館前。
建物を見上げる。
――裁判の日時が決まった以上、どのみち、夕方には戻って船の手配をしないとよね。
ふうと息をつき、ヒナは気合を入れる。
「調べるわよ。もしここでもなにも手がかりがなかったとしても、城那皐に会えば……あいつに会えれば、なにか――」
その声に反応した人間がいた。
騎士のような格好をした二人組であった。
「今、城那皐って言ったぞ」
「なにかあるな」
二人組はヒナに近づいてくる。
その二人の会話も、ヒナには聞こえていた。
――え? なに? この人たちもサツキを知ってるの?
どういう関係だろうか。
親しい間柄には見えないが、まるでわからない。
声をかけられた。
「キミ。聞いたぞ」
「はい?」
ヒナは小首をかしげてみせる。
騎士は質問した。
「城那皐とどういう関係だ?」
「どど、ど、どういう関係って、そんなの、別になんでもないわよ! 勘違いしないでよね!」
赤面しながらヒナが答える。
――そういえばあたし、ずっと城那皐城那皐って言ってるわよね。そ、そのせい? べ、別に変な意味はないわよぉ!
少し挙動不審なヒナをまじまじと見て、騎士は眉をぴくりと動かした。
「怪しい」
「べ、別にあたしはあいつとはなにも……」
本当にまだなにもないのだ。
――まだなんにもなくて、いや、これからなにがあるかって言うと……そ、そう! いっしょに研究するかもってだけで……。
頭の中で言葉を取り繕うヒナ。
騎士二人組は互いに顔を見合わせ、うなずき合った。
「ちょっと取り調べを受けてもらおうか」
「我々アルブレア王国騎士として、見過ごせないのでな」
「士衛組と名乗り始めたとの情報は聞いていたが、こんな仲間も増えていたとはな」
「王女のいとこ『天空の歌姫』、その他……『小さな仕事人』、『花園の大和撫子』、あとは料理人のメラキア人、そして、『万能の天才』。てことは、こいつは新顔ってわけか」
「顔も名前もまだわからねえし、そういうことだろうな」
二人の騎士はそう言いながら剣を引き抜く。
まだ頭の中でごちゃごちゃ考えていたヒナは、二人の会話を聞いていなかった。
だから、突然剣を抜かれたことで、
「へ?」
呆気に取られる。
だが、二人のヒナへの敵意はわかってしまった。
すべてではないが、状況もわかった。
これだけはわかる。
――やばい。変なのに巻き込まれた!
ヒナは騎士の後ろを指差した。
「あ!」
「ん?」
「なんだ?」
騎士二人組は振り返った。
「なにもいないぞ」
「いったいなにがあったというのだ」
「あっ! あいつ」
「逃げたぞ!」
隙を見て、ヒナは猛ダッシュで逃げ出していた。
背後の声を聞き取る。
いや、ヒナじゃなくても聞き取れる。
――もう気づかれた! 足音も聞こえる! 追って来てるわよね?
ヒナはちらっと後ろを振り返って、二人に追われていることを確認。
そこで「うわぁ」とつまずいて転ぶが、すぐ起き上がり、また前を向いて走り続ける。
「もう! なんなのよー!」
泣きそうになりながらヒナは大声で叫んだ。




