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67 『トゥモローイメージ』

 午後。

 昼下がり。

 食事処で昼食を済ませる。


「ごちそうさまでした」

「ありがとうございました」


 店を出て歩き出す。

 少し歩くと、後ろのほうでは「いらっしゃいませ」という声が聞こえてくる。

 ヒナと同じ方向から歩いてきていた客が入ったのだろう。

 もう二時近くになるが、この辺りでは他に食事処もないから、ここまでの道すがらご飯にありつけなかったら、あの店に入るしかないのだ。

 進路は浦浜。

 歩きながら、ヒナはひとりつぶやく。


「さっきは走って疲れたし、またいつどこで敵に狙われるかもわかんない。適度に休みながら行かないとね」


 それはこの旅における必須条件だった。

 狙われる身として、いつでも全力で逃げ出す構えが必要になる。

 だから疲れていてはいけないのである。

 疲れていたら、いざというとき逃げ出せない。

 それこそさっきのように、怪しい者が後ろにいたとき、《兎ノ耳》を使っていち早く危機を察知しても、常にギリギリまで歩いて疲労をため込んだ足では、本当に力を出したいときに力が出ない。逃げられない。

 そのため、ヒナは休憩を大事にしていた。


「また図書館でもあれば、適度に足を休められるんだけどなあ」


 地動説証明の手がかりを調べるついでに休めるなら、それに越したことはないのだ。


「とりあえず。茶屋でも木の下でも、どこかでちょっと休めたら充分だよね。あと二時間もしないで、きっと浦浜には着くから」


 もう浦浜はすぐそこだ。

 あるいは休憩も要らないかもしれない。


「今回、晴和王国に戻って来てからは、浦浜には行ってなかった」


 マノーラからの旅において。

 晴和王国で最初に降り立ったのは。

 (かい)()(くに)

 (みょう)()(こう)

 関東最大の港町である浦浜に対して、関西最大の港町が妙土。

 元々、ヒナの実家が関東にあるから浦浜到着を予定していたのだが、敵との遭遇から別の進路を取った。そこで、妙土港に向かったのだ。

 ヒナの予定では、晴和王国からマノーラに戻る際にも浦浜港を利用しようと思っていたため、あえて浦浜には立ち寄ってこなかったというわけである。

 晴和王国きっての大都市の一つに数えられる浦浜には、大きな図書館もあったと記憶している。

 それに、浦浜宇宙科学館というものまである。

 なんらかの資料が眠っている可能性は充分にあるのだ。


「浦浜は、多文化の近代都市。そこでも図書館には寄っておかないとね」


 少しの不安は、あの不思議な少年がすでに船出してしまっていないかという点だった。

 一応、おみくじでも急ぐなと書いてあった。

 不安は残るけれど……。


「でも、なにより……あいつに会って確かめたい。目指すパラダイム転換を引き起こす最後のトリガー、(しろ)()(さつき)


 サツキ。

 帽子をかぶったマントの少年。

 何度も会ったが、言いたいこともまだ言えてないし、聞きたいことも聞けていない。

 今度こそ、聞きたい。

 一体なにを知っているのか。

 そして、サツキが何者なのか。

 真剣な顔で考えていたが、ふっと自分の表情が険しくなっていることに気づく。

 ポケットから手鏡を取り出した。

 手鏡に自分を映して、唇を結ぶ。


「大丈夫。明日のあたしには、きっと笑顔が似合ってるんだから」


 笑顔になった自分をイメージする。

 父も言っていた言霊の力。

 自分に言い聞かせるつもりで声にした言葉。

 きっと、明日のあたしは笑顔になっている。

 満天の笑顔で、晴和王国を出発できる。

 そう信じて、手鏡をポケットにしまう。

 顔を上げた。

 涼風が吹き抜ける。

 セーラー服のリボンが揺れた。

 ヒナは探究と出会いのために、浦浜へと足を踏み入れる。

 まだ浦浜の端っこだ。

 あとは、中心部に向かって歩いてゆく。

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