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63 『ルーミングスレット』

 パッと目が覚めた。

 朝の七時。

 ヒナは身支度を整えて、宿を出た。

 浦浜へと向けて歩き出す。


「急がなくても、今日のうちに浦浜に行けるところまで来たわね。急がず焦らず」


 できれば、早く浦浜に行きたい。

 気持ちとしてはそうなのだが、(かわ)(ぐら)大師でのおみくじの結果にもあったように、焦らないことが大事だ。

 歩いていると、図書館への案内看板があった。


「川蔵は広いし、ここなら図書館にも有益な書物があるかな?」


 ヒナのいる(かわ)(ぐら)宿(じゅく)は、東海道の中でも大きな宿場町の一つだった。

『世界の窓口』とも呼ばれる『王都の庭先』浦浜の手前に位置しているため、『王都』との行き来も盛んであり、それゆえ人も多い。

 そんな川蔵宿には大きな図書館もあった。


「今日一日、ゆっくり休むつもりで本を探すか」


 研究のために足を止めることにした。

 これまでも、いろんな土地のいろいろな図書館で天体に関する書物を読んできた。

 しかしどこの図書館にも、なかなか地動説証明の手がかりになる書物がない。

 もしかしたら、そうした書物があるのに、自分の知識がないせいで気づけていないのかもしれない。

 それでも今気付けないのなら、次を探すしか道はない。


 ――ダメ。ここにもない。どうして世の中こうなのかしら。これなら、サツキに聞いたほうが早い……。でも、あたしだって自分の力で調べてからじゃないと、相談もできない。


 持っている知識をまとめること。

 地動説証明のために足りないピースがどこなのか把握すること。

 そうした準備がないと、助けを求められても困ってしまうだろう。


 ――今も、この世界は科学が進歩してる。この川蔵では、早くも蒸気機関の工場が作られ始めてる。昨日見た造船所もそうだった。あそこでは蒸気船が作られてた。あと何年かすれば、もっと科学は進化する。でも、あたしには時間がないんだ……。


 急いでも良いことはない。

 焦っても良いことにはならない。

 それなのについじりじりしてしまう。


「やっぱりなーい!」


 大きな声を出してしまい、周囲の人たちの視線が集中する。ヒナは顔を赤くして本を立てて顔を隠した。


 ――待ってなさいよ。


 かくして、ヒナは川蔵にて図書館で丸一日過ごしたのだった。




 四月十二日。

 早朝――。

 ヒナは川蔵宿を出発する。

 ここからは浦浜までもうすぐだ。

 大きな宿場町だから町を出ても少しの間は人通りも多かったが、しばらくすると人が周りにいない時間も多くなる。

 まだ朝早いせいもあるかもしれないが、人の姿はまったく見えなくなった。

 そこで、ヒナは足を止めた。

 振り返る。


「今、急に足音が聞こえた……? 気のせい……?」


 首をかしげる。

 ヒナの《兎ノ耳》は遠くの音も聞き取れる。小さな音も拾える。常人の約百倍くらいの聴力がある。

 耳には自信のあるヒナだったが、今の一瞬の足音は気のせいかと思うばかりであった。

 本当に足音があれば、ちゃんと気づくはずなのだ。

 前に向き直り、ヒナは歩き出した。




 その後方では。

 ずっと、ヒナを監視し追跡している者がいた。

 それは地動説証明を阻止しようとする宗教側の刺客であり、ガンダス共和国のラナージャでヒナと戦った追っ手の女である。

 彼女は自身から発する音を消すことができる魔法でヒナを追い詰めた。あのときも、助けが入らなかったらヒナは逃げ切れなかっただろう。

 ヒナの天敵とも言えるその魔法で、彼女は三日前に『王都』を出たばかりのヒナを発見し、そこから尾行していたのだった。

 人通りが少なくなってきたタイミングを見計らっていた。


 ――気づいたかと思ったけど、大丈夫みたいね。


 手で合図を送る。

 彼女のさらに後方にいる仲間へ向けたものだった。

 ヒナの《兎ノ耳》を知っているからこそ、音で気づかれないよう、音を消せる自分以外の仲間はヒナと充分に距離を取らせて行動していたのだ。

 自分が動き、仲間もそれに続いて動き出す。


 ――通りの人が少なくなったせいで、音を拾える範囲が広がったのかしら? まあ、この距離ならギリギリ大丈夫ってことは証明されたけど。

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