表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1194/1268

60 『リターンマノーラ』

 会いたかった幼馴染みは旅立っていた。

『王都』に残っていたのはヒナのほうだった。

 よりにもよって今日旅に出たと聞くと、とことんタイミングがずれていたのだと思えてならない。

 チナミの家を出て、ドアを閉めた。

 そこで立ち止まる。


「もう、なんでこう間が悪いのよ」

「本当に残念です」

「まったくよ」

「はあ」


 隣で聞こえるため息と声に疑問を覚え、横へ顔を向ける。さっきからヒナといっしょになってぼやいていた少女に言った。


「あんただれ?」

「え」


 少女は、ヒナよりも一つ年下くらいだろうか。

 袴姿に長い黒髪、身長は一五〇センチ弱で、よく整った綺麗な顔をしていた。深窓の令嬢を思わせる気品がある。

 でも、なぜかどこかで会ったことがあるような、見かけたことがあるような気がする。そんな顔だった。


「あかんかったか。じゃあ行こか」


 声をかけたのは、仮面のようなメガネをかけた青年だった。


 ――怪しい人ね。


 妙な空気をまとった青年だと思った。

 これまでヒナが出会っただれとも異なる空気感。

 少女は彼の一歩後ろについて歩く。


「はい」

「人の縁は不思議なもんや。必要なときに会える。気を落とさんことやな」


 声が大きいわけじゃない。けれど、まるでヒナにも言っているかのような、そんな声の張り方だった。

 ヒナは二人の背中を見送り、腕組みする。

 二人の姿が見えなくなって、ひとりごつ。


「ま、あいつの言ってることも一理あるわね。あたしだって、そのうち会えるわ」


 言霊の力もそうであるように、そうなるようヒナは声に出した。物事は、世界は、言葉の通りになってゆく。そう信じて。

 そして歩き出す。


「待ってなさい、(しろ)()(さつき)。あたしの話、今度こそ聞いてもらうんだから」




『晴和の発明王』に会えなかった。

 城那皐には肝心なことが話せなかった。

 幼馴染みとはすれ違って顔も見られなかった。

 そんな心残りな『王都』を発って。

 ヒナは(うら)(はま)を目指した。

 新聞で報じられる父を非難する記事の様子から、裁判までの日数が少なくなってきていることを感じている。

 そろそろ、(せい)()(おう)(こく)を出ないといけない時期になっている。

 だから、もう父の裁判が行われるイストリア王国のマノーラに戻られなければならないのだ。

 マノーラまでは、船で大陸に渡る必要があった。

 王都からもっとも近くて大きな港が浦浜港なのである。

 そこにサツキも行くらしい。

 そこに行けばサツキにも会えるはず。

 そこでは本当にチナミとの運命の交錯があるかわからないが、少なくともサツキに会える可能性はある。

 (おうみ)(さき)(くに)、浦浜。

『王都の庭先』。

 またの名を――

『世界の窓口』。

 その途中で。

 ヒナを狙う怪しい影があった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ