表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1192/1268

58 『ファーストエンカウンター』

 ヒナは夜の王都を歩いていた。


 ――結局、『晴和の発明王』には会えなかったな。いったいどこほっつき歩いてるんだか。


 仮にも『(おう)()()()()(てん)(のう)』として王都を守る存在であり、しかも中でも『(おう)()(しゅ)()(しん)』などという大仰な名前までつけられている。

 それなのに王都にいないとは何事だろうか。


「玄内さんだっけ。あの人、本当にいるかしら? 噂通りただの都市伝説だったりして……」


 その可能性が充分にあるくらいには、手がかりがつかめなかった。


「それに、(しろ)()(さつき)よっ」


 サツキのことを考えると、言いたいことが山ほど出てくる。


 ――あいつがいれば、あいつさえいたら、『晴和の発明王』なんて人がいなくても、地動説の証明ができるかもしれないんだ。


 なんせ、『晴和の発明王』はヒナの父に天体望遠鏡をくれた。

 しかし地動説の話を父としたことがあるかどうかもわからない。

 いろんな研究をしている人らしいから、天文学にかける時間などないかもしれないではないか。


 ――今度サツキに会ったら、絶対に言ってやるんだから!


 地面を見つめながら口を結ぶ。

 なぜか少しにやけそうになって、


 ――な、なんて言えばいいんだろう。さっきは言えなかった地動説のことは聞き出さないといけないけど、最初からそれを聞くのはちょっといきなり過ぎるわよね。


 サツキのクールな無表情を思い浮かべる。


 ――あいつ、いつも反応が薄いのよ! アプローチの仕方がわからないでしょ! どうしよう……まずは異世界人かどうか聞いて……って、それはもっといきなり過ぎるっ!


 角を曲がったところで、


「きゃっ」


 だれかにぶつかった。

 顔の高さが同じくらいだったから、額同士がうまいことぶつかってしまった。

 普段ならヒナは《兎ノ耳》で音を聞き分け、だれかとぶつかるなんてことはありえない。


 ――サツキのこと考えてたせいでぶつかった!


 ヒナは目に涙を浮かべて額を抑える。


「いったーい! だれよ……」


 しかし、ぶつかった相手は自分の名前を名乗るわけではなく、むしろヒナの名前を口にした。


(うき)(はし)()()か」

「え」


 ヒナは目をパチパチと瞬きさせ、サツキの顔を見る。


「あ! 城那皐!」

「なにしてるんだ、こんなところで」

「それはこっちのセリフよ」

「俺は行くところがあってな。知り合いの家にお邪魔するんだ」

「こんな時間に常識知らずね」

「相手が先に行って待っててくれと言うんだ。いいだろう」

「ふーん」

「そっちはどうなんだ?」


 ヒナは返事に迷う。

 つい正直には言えず、さっき立ち寄ったお店の話をする。


「買い物よ。カタログ見てたらいい櫛見つけてさ。本当は王都にいる友だちに会っておきたかったんだけど、夜だしやめたの。家の前までは行ったんだけどさ」


 探していた『晴和の発明王』にも会えず、サツキとはうまくしゃべれなかったから、昔からの友だちのチナミに話を聞いて欲しくなったのだ。

 でも、やめた。

 明日の朝に行ったほうが迷惑にならないと思い直した。元々その予定だったし、宿に帰ろうとしていたところだった。


「友だち?」

「そ。ちょうど近くに来たからね。ちな……ちなみに! あんたには関係のない話よ」


 ビシッと指を差す。

 つい友だちの名前を出しそうになって誤魔化した。

 意味のないことだが、どこでだれが話を聞いているわからない。できるだけ、こっそり会いに行って、チナミを巻き込まないようにしたいのだ。

 サツキは小さく嘆息する。


「そうだな。じゃあ」

「ちょっと待ちなさいよ」

「なにかね?」


 通り過ぎようとするサツキを引き止めたヒナは、腕組みしながら言った。


「サツキ、あんた腕怪我してるじゃない。これ、使えば」


 ぐっとハンカチを押しつけるように差し出した。こういうのは照れくさいから、サツキの顔も見られない。だが、着物には血は染みているしサツキの身になにかあったのは間違いない。


 ――なにがあったのかな……。


 サツキはハンカチを受け取った。


「ありがとう」


 平気な顔をしているサツキからは、困った様子はうかがえない。今はこれだけでいいのかもしれない。


「今度会ったら返しなさいよ。じゃ!」


 言い捨てて、ヒナは走り出した。


 ――あーもう! また話せなかった! あいつが怪我なんてしてるからいけないのよ! だ、大丈夫だよね? サツキ、あの人斬りガモンとか、危険なやつらに絡まれてないよね?


 サツキたちの旅にはなにか目的もあるようだったし、抱えているものもあるのだろう。

 だが、それを聞くのは今じゃない。


 ――次こそ、ちゃんとあいつとしゃべるんだから。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ