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53 『ドントライ』

 思い切りバンとテーブルを叩いて立ち上がり、ヒナはガモンの話をデタラメだと切り捨てた。

 それはガモンを驚かせた。

 同時に、再びガモンの怒りに火を点けた。


「ごわア!? おまえ。おいになんか言いたいことがあるどん!? ごわアッ!」


 鬼のような顔でにらまれる。

 ヒナはすぐに後悔した。


 ――しまったぁ……言っちゃった。こんなこと、きっと理解してくれるのは、まだあの(しろ)()(さつき)くらいなのに……。


 地動説を認め、天動説を過去の遺物だと断じた少年。

 しかも、この世界のことをよく知らないらしい怪しさ。

 もしかしたらトチカ文明の研究を記した小説『栃花物語』にあったのと同じく、異世界人かもしれない存在。

 ヒナの意識を奪っては離さず、気になって仕方ない……そんな自分に悶々としてしまうくらい、気に入らないヤツ。

 そのサツキだけが、父とウルバノ以外でたった一人、地動説をわかってくれているのだ。

 認めてもらえないだけならまだいい。

 しかし、ガモンは自分の考えに合わない相手はどこまで痛めつけなければ気が済まないような狂人に思える。

 それでも、ヒナは言葉を取り消すつもりはなかった。


 ――でも……引けない! どんなときだって、あたしはあたしとお父さんに嘘をつきたくないんだ!


 父は言った。


「そして、なによりも良くないのは、心から思っていて信じていることなのに、嘘をついて否定して言葉にしてしまうことだ。言葉にしたらその通りになっていってしまうからね」


 と。

 言霊の力について教えてくれた。

 だから。

 声に出して首を突っ込んでしまった後悔はあっても、言葉を違えるつもりなんて毛頭ない。

 こんな相手に関わるなどバカなことだとわかっている。いつもみたいに「ヒナは賢い子だ」と言ってくれるような選択ではないかもしれない。

 怖くて足は震えるし、逃げ出したいし、謝ってなかったことにしたいけれど、嘘をつくことだけはできない。

 覚悟を決める。

 ヒナは震える足を必死に押さえつけて声を張り上げた。


「いい? 太陽が地球のまわりを回ってるんじゃなくて、地球が太陽のまわりをぐるぐる回ってんのよ! 天動説なんかあり得ないんだから! あんたのたとえは前提から間違ってんのよォォーッ!」


 面と向かって叫んでやった。

 さっき覚悟を決めたばかりなのに、泣きそうだった。


 ――あたし、殺されるかも……。


 言いたいことは言ったし、嘘は言わなかった。

 信じていたことを、言葉にした。

 本当のことを、言葉にした。

 この『人斬り』ガモンに関わったことは後悔しているが、嘘で誤魔化さなかったことだけは後悔していない。

 元々、命をかけて旅に出て、命をかけて父と共に戦うと誓ったのだ。

 こんなところで嘘をつくなんてできない。

 斬られるかもしれないと怯えていると。

 なぜか、ガモンは笑い出した。


「ごわッハッハ! ごわごわ」


 訳がわからない。

 どうしてなのか、とても愉快そうなのである。

 もしかしたら地動説をバカにしているのだろうか、とも思えて、ヒナは今にも腰を抜かしそうになりながら、机についた手を支えにして力を込め、ガモンを問い詰める。


「なにがおかしいのよ!」

「いやいやいや、いやいやいーや、すまんどん! おいは楽しくなったんでごわすよ」

「はい?」


 楽しくなる意味がわからなかった。

 だが、ガモンはヒナを目の敵にする様子もない。


「地動説はあり得ないでごわすか。いいこと聞いたでごわす。そんなこと、証明できるどん?」


 証明。

 まさに、ヒナがしようとしていることだ。

 これにも嘘偽りなく言い返す。


「それをしようと頑張ってんのよ。いつか必ず……いいえ! 近いうちに絶対の絶対の絶対に証明してみせるんだから! この『()(がく)(もう)()』、(うき)(はし)()()がね!」

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