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49 『アクションポリシー』

 ヒナは物陰に隠れて、サツキを観察する。


「あいつは、あっちに行くのね。あしたにもやることがあるから、あいつにばっかり構っていられないけど、方角がわかればあとで会えるかもしれないわよね。どっちみち、あいつも(うら)(はま)には行くみたいだしね」


 サツキは旅の剣士に声をかけられていた。

 どうやら勝負をするらしい。

 それを見ていられるほど暇じゃない。


 ――さて、行くか。『晴和の発明王』を探して、明日の朝までに見つからなかったら、チナミちゃんの顔だけで見て、浦浜に向かおう。


 そうと決まれば。

 さっそくヒナはきびすを返して、持っていた服と着替えた。

 和装になる。

『王都』ではこれが馴染むし、着ていた服はこのあとクリーニングに出して明日回収すればいい。

 ヒナのお腹の虫が鳴る。


「お昼ごはんにしますか」


 とりあえず、気ままに歩き近くのもんじゃ焼き屋に入った。




 久しぶりの『王都』(あま)()(みや)

 晴和王国の人々は昔、新戦国時代になる前までは明るくて生き生きしており、戦のない平和な時代が二百年以上も続いたという、世界でも類を見ない歴史を持っていた。

 その時代の名残はここ『王都』にある。

 国王の住まう『王都』は、不可侵領域とされており、どこの武将も手出しはできない。

 だから戦には巻き込まれず、平和が維持されていた。

 ゆえの明るく穏やかな街だった。

 それなのに、今は違う。

 ここでは、事件が起こっていた。

 昼には怪盗事件。

 夜には人斬り。

 そのせいで『王都』には不思議な妖しさが漂っている。

 ヒナはそうした事実を、もんじゃ焼き屋の店内の人々の声から知った。

 常人の百倍もの音を聞き取れる《兎ノ耳》は、こうした情報収集ではすごい力を発揮できるのだ。


 ――このお店に来る前にも、前までの王都とはちょっと違う空気を感じてた。でも、周りの声を聞いてると、怪盗事件と人斬りが原因っぽいわね。


 かといって、ヒナのやることは変わらない。

 目的があるから『王都』に来た。


 ――まあ、あたしには怪盗事件も人斬りも関係ないわ。だって、あたしは『晴和の発明王』を探さなくちゃいけないんだもん。


 名前は、以前『王都』に来たときに聞いたが忘れてしまった。

 わかっているのは、彼が『晴和の発明王』の他、いくつもの異名を持つ、この世のありとあらゆる叡智を備えた天才人だということだけだ。

 彼は無数の顔を持つという。

 ある時は作家、ある時は芸術家、ある時は科学者、ある時は医者、ある時は発明家……。ゆえに彼は『万能の天才』と評されるが、常に表舞台に出ることを望まず、名前ばかりが一人歩きしていったとのこと。

 見た目は豪傑を思わせる風貌らしい。

 しかし、この数年、彼の姿を見たという声は聞かない。

 それでも彼は『(おう)()()()()(てん)(のう)』の一人であり続け、『飽くなき探究者』とも称され論文は次々に上がってゆく……。


 ――ていうのが、王都少女歌劇団『春組』の一人が語ってくれた受け売り。実際、どうなんだろう? 本当にいるのかな? 街の人も、今はいないとか、いつ王都に戻ってくるかわからないとか、曖昧なことばっかり言ってたけど……いてくれるかな?


 いたらお礼を言いに行きたい。

 ヒナがずっと大事にしている望遠鏡をつくってくれた人だからだ。

 そして、感謝を伝えたら、聞いてみたい。

 地動説について、なにか知恵を貸してもらえないか。


 ――感謝を伝えて、知恵を貸してもらう。それができたらラッキー。会えなかったら仕方ない。期待はそんなにしてない。一日探しても会えなかった場合、明日、チナミちゃんの顔だけ見て浦浜に向かうんだ。


 昔からの友だち。

 ()()(かわ)()(なみ)

 この『王都』に住む少女で、ヒナより一つ年下。

 マノーラの学院の同級生たちにも心を許していない、ろくに友だちもいないヒナが唯一気を許した相手なのだ。

 すぐに会いに行って長居したり、ヒナの事情をあれこれ話したりしても、巻き込んでしまう恐れがある。だから顔見せくらいがちょうどいい。


 ――チナミちゃんに会えたら、あとは晴和王国に心残りはない。もちろん、王都か浦浜で城那皐に問いただして、なにを知っているか聞き出さないとだけど。それができたら、マノーラに戻るだけ。


 いろいろ考えながらもんじゃ焼きをつくっていたヒナだったが。

 このあと、危険な人物と出会ってしまった。

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