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48 『アップトレイン』

 そば屋で出会ったアキとエミ。

 二人は『晴和の発明王』の話が終わったあともしゃべり続けた。

 ヒナは恥ずかしがり屋の少女のように答えるか、口を挟めずそばを食べるかで、ちょっと気まずかった。


 ――あたし、あんまり知らない人としゃべるの得意じゃないのよ。それなのに、なんなのこいつら。ずっと会話が止まらない。さっさと食べて店を出ようっと。


 急いでおそばをすすり、アキとエミを置いて店を出ることに決めた。

 しかし。

 結局、ヒナが食べ終えるのとアキとエミが完食するタイミングはほとんどいっしょだった。

 むしろ、わずかにアキとエミのほうが早い。


「うぐぅ」


 どうしようかと思っていると、アキとエミはお店のおじさんとおばさんと会話を始めたので、ヒナはさっさと店を出た。

 店を出る際、アキとエミには、


「またね」

「ごきげんよーう!」


 と声をかけられた。


「まったく変な二人組だったわ……。でもまあ、ちょっと思い詰めてた気持ちが和らいだかも、だけど」


 少しだけ、ヒナの頬が緩まった。




 夕方になる前には、ヒナは(こう)(ほく)(みや)の中心地に辿り着いた。

 駅の近くの宿屋を取る。


「明日は、また『王都』。今度こそ会えるといいな、『晴和の発明王』に。それで、お礼も言わなくちゃ。あと、チナミちゃんにも会いたいな。そして、あいつとも、ちゃんとしゃべりたい……」


 久しぶりの『王都』に想いを馳せ、眠りにつく。




 翌日――

 四月八日。

 ヒナは早起きして、列車に乗ることにした。


「光北ノ宮は駅弁発祥の地。食べない手はないわよね。朝ごはんは……元祖駅弁。これで決まり」


 単なるおにぎり二つとたくあんを、竹の皮で包んだものだ。

 気になるものは他にもあるが、せっかくなら元祖を食べてみたかった。

 さっそく列車内に入って、席を探した。


「えーっと。まだ人も多くないから選び放題だわ。うん、ここがいいわね」


 向かい合わせの四人掛けだが、常に列車が満席になるわけじゃない。

 近くに人が来ないでくれたらいいと思いながら、ヒナは気に入った場所を陣取った。


 ――おにぎりは、列車が発車したらにしようかな。


 気分良く座っていると。

 他の客もぞくぞくと乗り込んできた。

 中でも、賑やかな集団がいる。

 ヒナのよく聞こえる耳がなくてもわかる。


「騒がしいわね。だれよ」


 立ち上がって後ろを確認する。


「う」


 見えた人たちがだれなのかがわかった。

 なんと、ヒナが一度は見失い、今度いつ会えるかと気にしていた少年――(しろ)()(さつき)だった。

 だが、サツキは一人ではない。

 あのときもいっしょにいたクコの他に、三人の同行者がいる。


「なんであいつらがいるのよ。なんでいつの間にか五人でまとまってるのよ。城那皐に話しかけにくくなっちゃったじゃない……」


 三人の顔も確認して、隠れるように座った。


 ――そば屋で会ったアキとエミがいるのも謎だし、女が一人増えてるし。今度、どうやってしゃべりかけようかしら……。


 思わず身を潜めてしまっていたヒナだったが。


「ちょっと失礼」

「いいかしら」

「ごめんなさいね」


 と、おばあさん三人組がヒナを取り囲むように座った。


「ど、どうも……」


 ヒナは会釈して、窓の外へ目を戻す。


「城那皐……そのうち、問い詰めてやる」


 ぽつりとつぶやいた。


 ――まあ、見失ったと思ってたあいつが見つかったのはラッキーだったわね。問題は、取り巻きの四人がいなくなるタイミングを見計らう必要があることだけど。


 おばさんが聞いてきた。


「おせんべい、食べる?」

「若い子はたくさん食べないとねえ」

「いや、あたしは……」


 断ろうとするが、


「まあまあ。いいから」


 と押しつけられる。

 それから、列車の旅は四時間続いた。

 考え事をするにはおばさんたちの会話が耳に入りすぎて、昼寝もできず、ずっと二つのおにぎりとおせんべいを食べ続けるのだった。

 そして、お昼。

 列車は『王都』(あま)()(みや)に到着する。

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