42 『ガールミーツボーイ』
翌日。
創暦一五七二年四月五日。
この日は、ヒナにとっては運命の日になる。
運命が重なり合う日。
ヒナは朝早くに目を覚ました。
朝の五時。
起きてすぐに温泉に入り、昨日読んだ小説『栃花物語』についてまとめたノートを見返す。
そして、図書館の開館に合わせて駆け込んだ。
正午前には『栃花物語』を読み終えた。
読んだあと、気になった箇所をとにかく《速記鉛筆》で書き出していった。
どこを書き留めるべきか吟味し、すべてを書き終えたのがお昼の二時過ぎ。
街を歩きながら、ヒナは食事処の横で足を止める。
「お昼ごはん、まだだったな。食べたら街を出ようかな」
店に入り、そこでもトチカ文明について聞いてみた。
なにも情報は得られなかった。
だが、店員のおばさんが教えてくれる。
「街を出るなら、最後に楯馬紀努衣姫神社でも寄ってみたら? そこで祈れば、願い事が絶対に叶うのよ」
「願い事ですか」
「展望台もあるし、時間があるなら星を見て行ってもいいしねえ」
「え、展望台? あたし、星に興味があるので行ってみます」
この街は、どこの店にも街歩きのパンフレットが置いてあるようで、ヒナは一部もらって、それを見て神社を目指した。
途中、紀努衣楯馬大吊橋という長い橋を渡った。
しっかりしたつくりの吊り橋だが、全長が一五〇メートル近くあるのでちょっと怖い。
「なんか揺れてない? 大丈夫なの? ここ」
へっぴり腰で歩いていると。
向こうから歩いてくる女子二人組が話している声が聞こえてくる。
「ここって、縁結びの橋なんだって」
「そうなの? なんで帰りに言うのよ」
「だって、神社に書いてあったんだもん」
「でもそれならあたしたちも、良い出会いがあるかもじゃない?」
「ね」
そんな会話を聞いて。
――なにが縁結びの橋よ。ぐらぐらして不安定で、これで良い出会いがあるっていうの?
せっかくの澄んだ翡翠色の紀努衣川も見られず、それでもようやく渡り終える。
そこからはトンネルを歩く。
トンネルを出て少し歩けば、鳥居があった。
社殿も見える。
小さな神社だ。
「これが、願い事が絶対に叶う神社? 小さいのにそんな御利益があるのかしら……」
だが、来たからにはお参りしないわけにはいかない。
「とにかく、祈らせてもらおう」
祈る。
気づけば、長い時間祈っていた。
――考えたら、神社にお参りなんてずっとしてなかったわね。つい、子供の頃みたいに願っちゃってた。
ついでに、近くにあった鐘も鳴らした。
――どっちも縁結びに効くみたいね。古代人とか、あたしを助けてくれる、良い縁が結ばれますように。
鐘の音はよく響いた。
ここからの音はどうして街に広がるのだろうか。
街を見渡すと。
絶景だった。
「こんなにすごい景色だったんだ」
つい見とれてしまう。
あ、とヒナは望遠鏡を取り出した。
「ここからだと、今の時間ならもう星が見えるかも」
――展望台じゃないけど、ここからでも結構見える気がする。
良い場所を見つけたと思った。
ヒナはご神木を見上げる。
木々の隙間から漏れる夕陽に、
「そろそろかな」
右手に持った望遠鏡を構えた。
そのとき、少女が声をかけてきた。
「少しよろしいでしょうか」
さっきここに来たばかりの参拝者で、男女の二人組。そのうちの少女のほうだ。白銀の長い髪はなかなかお目にかかれない。
隣の少年は、どこか不思議な雰囲気を持っていた。
 




