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38 『カムアップウィズ』

 その日の晩。

 ヒナは荷物をまとめた。


「また荒らしに来るかもしれない。でも、もう使わない資料なら置いていっていいよね。持っていくものは特になし。いや……」


 写真立ての写真を取り出した。


「少し破れてるけど、これだけは持っていこう」


 ほかの写真といっしょに挟んで、ヒナはカバンを手に家を出た。

 家を振り返って、


「いってきます」


 村を旅立った。

 本当は何泊かして、マノーラに戻る予定だった。

 しかしあの家にいるのがつらかった。


「次、どこに行こう……? もう、マノーラに戻っちゃおうかな」


 つぶやき、歩く足を止めた。


「あたしにできることって、もうないのかな……」


 星が瞬く空を見上げると、涙が滲んでくる。


「まだ地動説の証明、できてないよ……」


 こんなに旅して、こんなに研究してきたのに。

 まだ証明の手立てはない。


「マノーラに戻るとしても、その前に、最後に『王都』にも寄って、『晴和の発明王』をちょっとだけ探してみようかな」


 去年は会えなかったが、今はまた『王都』にいるかもしれない。


「まあ、期待はしないけど」


 会えたらラッキー。

 期待しないで少し話を聞いてみるだけでいい。


「それより、チナミちゃんに挨拶だけでもしておきたいな。顔を見るだけなら、チナミちゃんにも迷惑かからないし」


 昔からの友人であるチナミに、前回は会えなかった。だから今度は会いたかった。


「チナミちゃんに会えば、晴和王国での心残りはない……わけない! あたしは、まだ地動説証明の道筋をつけてない。あたしは、お父さんと戦いたい! 研究だってまだまだ足りない。あたしにできることはまだあるはず。なにかをつかんでから、晴和王国を出たい」


 滲んでいた涙を、指先で拭う。

 改めて、まだ戦う決意をする。


「だって、晴和王国にはなにかあると思うから。晴和王国には『晴和の発明王』以外にも有名な学者がいるし、たくさんの歴史もあるし……」


 そう思ったとき、ふと浮かんだことがある。


「あ、そういえば、晴和王国にはトチカ文明があったんだ」


 そこに気づいたとき、光が射した気がした。


「この世界の真実、古代文明の手がかり。わからないことも多い文明だけど、古代人がなにか記してたりとか、かつて星を読んで航海した海洋民族のこととか、なにかわかるかもしれない」


 スターナビゲーション。

 星や月、太陽などの天体観測によって、現在地や航路を定める伝統航海術。

 去年、晴和王国へ向かう船の中で読んだ本を思い出す。

 この航海術を扱う海洋民族と晴和王国にはなにか深いつながりがある、と書いてあった気もしたし、古代人や古代文明から読み解けることがあるかもしれないと閃いた。


「そうと決まれば、(しょう)()(くに)ね。トチカ文明の伝承が残っているのは、『(おう)()(おく)()(しき)()()()(がわ)温泉街だったかしら」


 空馬ノ国と照花ノ国は隣同士。

 特にこの温泉街はここから見て北東にある。

 二つの国を結ぶ列車は走っていないが、距離も遠くない。

 おそらく急げば数日でも行ける。


「うん、決めた。()()()(がわ)温泉街に行く。照花ノ国には世界樹もあるし、そっちも寄って行こうかな。ここからそんなに遠くないのに、意外と行く機会ってないし、なにかはあるかも」


 照花ノ国のほうを向いて、ヒナは一歩踏み出す。

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