表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1170/1271

36 『ショートハンドペン』

 文房具屋『(すず)(うら)』。

 お店をやっているのはおばさんだった。


「へえ、その玄内さんって人を探してるの。ごめんね、よく知らないわ」

「そうですか」


 残念そうにするヒナに、おばさんは聞いた。


「どうしてその人を探してるの?」

「あたし、とある研究をしてるんです。天文学の研究です。それで聞きたいことがあって」


 話を聞くと、おばさんは優しく笑顔をつくって言った。


「その年で研究なんてすごいわね。じゃあ、この鉛筆をあげる」

「え?」


 ヒナが顔を上げると、おばさんの手には鉛筆があった。

 しかも見たことがある鉛筆だ。


「あっ! この鉛筆、知ってます!」

「あら、そうなの」

「『王都』に住んでる友だちが前にくれたんです。あたし、勉強に使ってたらすぐに使い切っちゃって」

「それなら説明は不要ね。研究にはたくさん文字を書くでしょ? これを使って頑張って。応援してるから」

「あ、ありがとうございます!」


『万能の天才』玄内について。

 詳しいことは聞けなかったが、ありがたい収穫があった。

 つい、ヒナはいただいた鉛筆のほかに、さらに十本以上を購入させてもらった。おばさんの親切でおまけもしてもらったし、本当に立ち寄ってよかったと思った。

 店を出て、ヒナは笑顔を浮かべる。


「まさか、前にチナミちゃんがくれた《(そっ)()(えん)(ぴつ)》が売ってるお店がここだったなんてね。こんなにたくさん買えてラッキー! 頑張らないと」


 この《速記鉛筆》は、文字を速く書くことができる。つまり自動で速記できてしまうという優れ物なのだ。

 前に、友人のチナミがこれをプレゼントしてくれた。

 また欲しいと思っていたが、マノーラにいたら手に入れることはできないし、すっかり存在を忘れていた鉛筆なのである。

 少し歩いてから、ヒナは振り返る。


「そういえば、ほかにも便利な魔法道具って売ってたのかな? もっとちゃんと見ておけばよかった」


 確か、《マインペン》とかいう商品があったような気がする。ペン以外にも、便利なノートなどがあれば欲しいところだが、今は《速記鉛筆》だけで充分過ぎる収穫だった。

 そして。

 この日のヒナの調査は打ち止めとなった。

 もう夕方になったので、早めの夕飯を外で食べて、そこでも店員に聞いてみたが知らないとのことだった。

 結局、ヒナは宿に戻ってベッドに横になり。


「だれもろくに知らなかったわね」


 と、つぶやいた。


「聞けば、『王都』にいるかもわからないって……。それでよく『(おう)()()()()(てん)(のう)』なんて呼ばれてるもんだわ」


 それでいったいどれだけの活躍ができているというのか。

 怪しいものである。

 ヒナは寝返りを打つ。


「もういいや、一旦忘れようっと……」


 これ以上頑張って探しても、出会えるかどうかもわからない。というより、出会える可能性が随分と低そうなのだ。

 今はこの街で『晴和の発明王』を探し続けるよりも、自分の研究のための旅を優先したほうがいいと判断した。


「明日、近くの図書館に行って資料集めと勉強をしようかしら。あとは、成果次第で『王都』を離れる」




 一週間後。

 ヒナは『王都』を発った。

 相棒の望遠鏡を作ったという『万能の天才』には、ついに出会えなかった。

 しかし『王都』にはいくつもの大きな図書館があり、勉強には事欠かなかったので、『王都』では充実した時間を過ごせた。


「チナミちゃんにも会いたかったけど、今会えば巻き込み兼ねないし、会うにしても、晴和王国を旅立つ前かな」


 それからのヒナは、まずは西に向かって旅をした。

 歩き旅だ。

 天体観測をしながら、列車も使うことなく歩いて西へ西へと進んでいった。

 これまでに集めた資料の研究と天体観測があるから、どこへ行っても退屈する暇もない。

 各地の図書館も巡った。

 立ち寄って、気になった部分を書き取るのは《速記鉛筆》によって高速化されたし、おかげで旅の途中で足止めされることがなくなった。

 西への旅は本州を渡って五州地方まで回り、今度は北を目指した。

 北は本州の最北端まで行って折り返し……

 (そう)(れき)一五七二年三月。

 再び、(くう)()(くに)に戻ってきた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ