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32 『マザーズボイズ』

 ヒナは母の墓参りにきた。


「ただいま。戻って来たよ」


 墓石を綺麗に拭いて掃除する。


「あれからいろいろあったんだ。楽しいこともたくさんあったよ。でも、今は大変なことになってる。話したいこと……伝えたかった楽しかったこともたくさんあったのに、今の状況を先に話したくてまとまらないから、話させてね」


 目線を墓石に合わせるようにしゃがんで、お線香をあげると、ヒナはぽつりぽつりと今の状況を話し出した。


「ある日ね、ウルバノさんっていうお父さんの研究者仲間がうちに来たの。その人はとっても良い人で、お父さんも楽しそうで、あたしもうれしかった。でも、その人は地動説の研究をしてた。前に、お父さんが異端審問にかけられた原因の研究だよ。お父さん、今はもう地動説からは手を引いてたんだ。それはお母さんも知ってるよね。ただ、ウルバノさんが地動説の研究をしていることが宗教側に知られて、ウルバノさんの家は放火された。ウルバノさんはマノーラから去った。そのあと、宗教側は、お父さんに目をつけた。完全にこの学説を否定したいみたい。それで、お父さんは危険を察知して、あたしを逃がした。あたしは逃げてきた」


 目にも声にも、少し涙がにじんでくる。


「でもね、逃げるつもりなんてないよ。あたしは戦うよ。お父さんがまた異端審問にかけられたときに、いっしょに戦うよ。だから、研究もするし勉強もする。頑張るよ」


 気づいたら涙がこぼれていて、袖で涙を拭った。鼻をすすって、


「そうそう、ちゃんとお父さんのこと話してなかったね。結局、やっぱりお父さんが考えていた通り、お父さんは宗教側と戦うことになっちゃったんだ。今、どうなっているのかはよくわからない。新聞ではもうお父さんを非難する記事が横行してるし、監視もされてると思う。身動きが取れないと思う。でも心配しないで。あたしがお父さんの代わりに研究してるんだから。裁判には、あたしが駆けつけるんだから」


 墓石に手を触れる。


「話、聞いてくれてありがとう。ごめんね。明日、楽しかったこといっぱい話すからね。今日は家に帰って、ちょっと休むよ。また明日来るね」


 もう空は夕焼に染まっている。

 ヒナはお墓をあとにして、帰り道、つぶやいた。


「弱音吐きに来たわけじゃなかったんだけどな。でも、少しだけ温かい気持ちになれたよ」




 家に戻ると。

 ヒナは掃除を始めた。

 隅々まで綺麗にするには体力も尽きかけていたので、簡単な掃除だけして、夕食とお風呂を済ませて、天体観測をした。

 久しぶりの実家の布団は、ホッとするよりも、なんだか不思議なあったかさだった。

 翌朝。

 六時。

 ヒナは朝食の前に、母の墓参りに行った。


「おはよう、お母さん。今日は楽しい話、いっぱい聞かせてあげるね」


 前にここを旅立ってからマノーラでの暮らしまでいろいろを母に話した。


 ――なんか、今日はお母さんの声を思い出す。優しい声が聞こえてくるみたいな、そんな感じがする。

 そのおかげでついたくさん話してしまって、たくさん聞いてもらって、お墓を出たのはもう十時に近かった。


 帰宅してすぐ、ヒナは腕まくりした。


「よーし。エネルギーも充電できた。まずは掃除だ。昨日できなかった分もやらないと。それで、資料をいろいろ引っ張り出して、使えるものがないかチェックしよう!」

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