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28 『ワームフィーリング』

 船旅で仲良くなったシャルーヌ人の少女・ポレットの家族から、ヒナはいくつか本を借りるようになった。

 ヒナがそろそろ本を読み終えて返そうと思って、ポレットに話すと。


「どうだった?」

「おもしろかったよ。特に海の本。古代人が使ってたスターナビゲーションのことが書いてあってさ。知ってる?」

「なにそれ?」

「星の航海術ともいって、星とか、太陽や月もそう、その位置とか動きなんかを見て航海する方法なんだ」

「ああ、ヒナって星が好きだもんね」

「たとえば、あの星を見ればあっちが北だってわかるわけ。でね、本の内容と照らし合わせると、やっぱり地球が太陽の周りを回ってるって考えたほうが納得できるなって思って」


 あ、とヒナは口をつぐんだ。

 もし地動説論者だとバレれば、なにを言われるかわからないと思ったのだ。

 しかしポレットは笑い飛ばすだけだった。


「あはは。ヒナっておかしい。ちょっと無理だよ。太陽ってすごく大きいんでしょ? その太陽の周りを回るとなると、今地球は猛スピードで飛んでることになるもん。振り落とされちゃうよ」


 ポレットは、ヒナの父・アサヒのことは言わなかった。やはり新聞は読んでいないらしい。そんな子も、地動説はあり得ないと一笑に付すほど、信じてもらえないことなのだ。


 ――信じて、くれないよね……。なんだか、お父さんことを言い出されなくてホッとしたような、信じてもらえなくて寂しいような……。


 旅に出てからも、ずっと昔に学校で友だちに話したときも、一度も信じてもらえたことのない地動説だが、やはり面と向かって笑われると哀しかった。




 ある夜。

 ヒナは晴和王国に到着するまでの日数を指折り数えていた。


「船長さんの話だと、あと九日で晴和王国に着くんだよね。楽しみ」


 振り返れば、この船旅も悪いものではなかった。

 せっかくできた友人・ポレットには、地動説を信じてもらえず笑われてしまったが、それは一般論であり一般的な知識から来る良識として否定されたに過ぎない。

 そのあとも友人のままでいてくれたし、彼女の父には他にも何冊か本を借りることもできた。

 それでも本を読むだけで過ごすには冊数が足りなく、暇にもなったこともあったが、ヒナはその度に父の本を開いた。

 今も父の本を開いている。


 ――お父さんの本を開くと、胸のあたりが温かくなる。


 船の中でも、ルーンマギア大陸でも、昔の学校でも、地動説はだれも信じてくれなかった。

 理解しようともしてくれない。

 誰も理解してくれなくて、寂しくて、辛いときも、本を開けば胸が温かくなることを知った。

 きっと、父の思いがこもった本だからだ。

 そして、父との思い出が刻まれている本だからだ。

 今頃どうしているかな。

 元気でいてくれてるのかな。

 大丈夫かな……。

 そう思って心配になっても、本を開いて文字をなぞって、寂しさを埋めてこられた。

 いよいよ明日、晴和王国に到着する晩もそうだった。


「お父さん、明日、晴和王国に着くよ」


 本に語りかける。


「いっぱい勉強もして、天体観測もしたよ」


 書かれた文字をなぞって、


「お母さんにも会ってくるからね」


 母のお墓参りもしたい。


「……お父さん、明日はなにをするのかな? あたしは(みょう)()(こう)の周囲を散策してみるよ。おやすみ」


 明日どうやって過ごせるか、父のことを思いながら、船旅最後の晩がふけていった。

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