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27 『スタディーアロット』

 長い航海の中で、ヒナは日々学び続けていた。

 天文学以外の本も読んだし、新聞も読んだ。

 ただし、情報に気をつけてもいた。

 旅立つ前、父は言った。


「新聞記事などの報道も、正しいことばかりとは限らないよ。世も末なら嘘ばかりになってしまう」

「ウルバノさんの火事みたいにね」

「あれも事実を伏せた報道だった。そういう風に、ただ情報が正しいか間違いかで測れないことのほうが多い」

「今はどれくらい正しい情報が出てるのかな?」

「どうだろうね。今がどれくらい正しいかはわからないけど、鵜呑みにしないことだ。自分で考えるのが大事だよ」

「わかった」


 そんな話もした。

 だから、ヒナは新聞の情報もすべて信じているわけじゃなかった。むしろ、常に疑ってかかっている。

 備え付けの小さな机の端に置かれた新聞を見て、ぼやく。


「なにが正しくて、なにが間違っていて、どんな思惑が潜んでいるのか。考えるのをやめたら、歯車になっちゃうんだよね」




 ヒナが旅立ってから――。

 この船の中は、ヒナががっつり勉強に取り組める貴重な期間だった。

 だからたくさん本も読んだし、新聞も読んだ。ただ読むのではなく、いちいち考えることをした。

 残念なのは、新聞は毎日伝書鳩が船に数種類届けてくれるのに対し、本はほとんど置かれていなかったことだ。

 そのため、ヒナが読む本は自分が家から持って来たものばかりになる。

 となると、ヒナにとっては読める本に限りがあることを意味した。

 結果的に、たったの数日ですべての本は読み終えていた。

 本も読んで、新聞も読んで。

 それでも身体を鍛えることに終わりはない。

 甲板で筋力トレーニングをしていると、同い年くらいの少女がいた。

 少女はヒナよりも一つ年上。

 シャルーヌ王国の出身。

 名前は、土梨杏歩玲都(ドナシアン・ポレット)

 晴和王国へ旅行するそうで、船旅の中で毎日ちょっとだけ話す中になった子である。


「今日もトレーニング?」

「そうだよ」

「すごいなあ」

「船の中だと身体がなまってさ」

「そっか。ヒナは普段からよく運動してたんだ」

「まあ、そうかもね」

「それに、ヒナは新聞も毎日読んでるよね」

「一応さ、知っておかないと。最新のニュースとか」


 ごまかすようになってしまうのも、ヒナの警戒心のせいでもあった。


「あと、前にヒナの部屋行ったとき、本も読んでたよね。しかも難しいやつばっかり。わたしは小説をちょっと読むくらいだから尊敬しちゃうなあ」

「あ、そういえば、ポレットはどんな本持ってる? あたし、今、知識欲旺盛でさ。よかったら貸してほしいなって思って」

「いいよ。なんでも貸すよ。わたしは恋愛小説、お父さんが歴史と海の本。で、お母さんは読まないんだ」

「え? 歴史と海の本!? いいの? ありがとう!」


 ヒナが目を輝かせると、ポレットは苦笑した。


「そっち? 別にいいけどさ。確かに、海の本とかもヒナが好きそうだし、なんか海とか地形とかそういう感じなんだけど、それでいい?」

「うん!」

「じゃあ、取りに来て。お父さんにもちゃんと聞いてからのほうがいいし、今なら部屋にいると思うから」


 そのあと、ポレットの父から本を借りた。


「返してくれるのはいつでもいいからね。いやあ、歴史や海の話が好きだなんて、うちの娘も見習って欲しいよ。気になったこととか、わからないことがあれば、なんでも聞いていいからね」


 ということまで言ってもらえた。

 その日から、ヒナは自分が持って来た本以外にも海洋学や歴史の本を読むようになった。

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