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24 『チケットトレード』

 チケットのトレード。

 それはヒナにとってはありがたい話である。

 ヒナがチケットを買ったことを、おそらく追っ手の連中は知っている。同じ便を取れれば、確実にヒナを捕らえられるのだ。

 青年の申し出に、ヒナはおずおずと尋ねた。


「い、いいんですか?」

「そんなに怪しむような目で見るなよ。ボクは急いでいない。馬車も船着場へ向かう。キミは逃げていて、今もその最中。それなら、早く船に乗れたら逃げ切れる可能性が高まる。違うか?」

「そうですけど」

「けど、ボクを信用できないと」

「信用もそうですし、そんな親切をあたしにする義理もないでしょう?」


 青年は薄く微笑した。


「確かに。ないな」

「あと、あたしは宿探しをしなくて済むし、あなたは宿を探すことになる。あなたは急いでいないそうだけど、チケットを交換するメリットがないです」

「ボクもこの街で食べたい料理があった。今晩はそれを食べてもいい」

「……」

「疑い深いんだな」

「だって、浦浜は晴和王国の東、(みょう)()(こう)は西。晴和王国に着いたあとも、移動の手間ができるでしょう」


 (かい)()(くに)は、晴和王国の西側ではもっとも賑やかな都市だ。『古都』(らく)西(せい)(みや)に隣接し、晴和七大貿易港の一つである妙土港を持つ。

 対して、浦浜は(おうみ)(さき)(くに)にあり、『王都』(あま)()(みや)の玄関口であり、『王都の庭先』と言われている。


「わざわざ晴和王国に行くのに、観光しないわけないだろ。どっちにしてもいろいろ見て回るんだ。どこから入ってもいっしょさ」

「なんでそこまでしてくれるの? ハッキリ言って、怪しいんだけど」


 感謝すべきだとわかっているが、なぜか怒ったような言葉になってしまう。だれにも感情をぶつけられなかったから、こんないびつな形になってしまったのか。それとも、警戒が怒りになったのか。ヒナ自身もわからない。


「ただの親切さ。ボクにとっては些細なことだ。たまたま再会した人間が困っていたから、親切な提案してやってるだけだぜ」

「うーん……」


 単純に親切な人ならば、本人にとってなんでもない範囲の親切をしてくれることがおかしなこととは言えない。

 ただ、あまりにも、ヒナにとって都合が良すぎるのだ。

 そこで、不意に、ヒナは思い出した。


「あっ!」


 急に大きな声を出したから、青年はちょっと驚いたように聞いた。


「どうした?」

「聞こうと思ってたのよ! あんた、なんであの言葉知ってたの!?」

「あの言葉?」

「言ってたでしょ? 『論理の欠片をすべて拾い集めれば、必ず結果が形成される』って! しかも、そうなることを期待してるとかなんとか!」


 青年は額を抑えて苦笑した。


「おいおい、なんでそんなの聞こえてるんだよ。魔法?」

「それはどうでもいい」


 青年は肩をすくめる。


「ボクもいろいろあってさ。マンフレード博士のことを思い出すと、戦う人は応援したくなるってのもあって……とにかく、今はそれくらいしか言えない。で、どうする? もう船着場だぜ?」


 時刻は十七時半。

 これ以上おしゃべりしている時間はない。

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