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21 『ノイズレンジ』

「どうしよう……?」


 まずは……。


 ――対策を立てないと!


 否。


 ――いや、そのためには、相手を観察して分析しないと!


 否。


 ――それ以前に、目的を決めないと!


 それが大前提だ。

 ヒナはまた顔だけ振り返り、相手を見て一瞬で記憶し、再び前を向く。

 走り続ける。


 ――あたしにとってのゴールは、あいつから逃げ切ること。倒さなくていい。戦わなくていい。逃げて、船に乗れたらいい。船に乗るために、宿を取れたらいい。最悪、宿もいらない。船に乗れさえすれば……。


 目的が定まった。

 次に、やるべきは。


 ――で。ここからは相手の分析。


 パッとまた後ろを見て前に向き直る。

 もちろん走り続けて。


 ――今までの観察じゃ足りない。でも、あいつとのやり取りとかで、わかってることもある。


 それを整理する。

 整理すれば、分析に必要な情報が洗い出される。


 ――わかってることその一。武器は剣。


 すでに、剣を向けられた。

 斬りつけられた。


 ――剣以外の武器はおそらくない。これもわかる。走っているとき、銃を持っていれば《兎ノ耳》が聞き取れる。他の金属音がないことから、他の武器もないと推定される。


 よって、武器は剣のみに限定される。

 気をつけるべきは、剣による攻撃だけになる。


 ――わかってることその二。魔法は、追跡能力に長けたもの。


 追跡能力が長けているからこそ、ヒナに迫ることができた。


 ――そしてその魔法は、音を消す類いのもの。


 音を消して、追跡できる能力。


 ――あたしの《兎ノ耳》でも、いざ斬りつけられるまで気づけなかった。あたしは視覚的には見通せない部分もあるけど、音を拾えないことはない。つまり、その音を消したから近づけたってこと。現に、あいつの音が近づいてきていたのに気づけなかった。


 気づいたら、側にいた。

 気づいたら、斬られていた。


 ――ほとんど確信を持って、音を消す魔法だと言える。なぜなら、あいつは、あたしの聴力を疑った。


 ヒナの聴力に気づいた。

 ヒナの魔法が聴力を強化するものだと判断した。


 ――それはつまり、音への警戒心が強いことを意味する。自分が音に関する魔法を使うからこそ、そこに気づけた。そう読み解ける。


 同類を察知できるのは、習性や知識があるからだ。注意できているからだ。

 だから、魔法の種類を断定した。


 ――次に、消せる音の種類だけど……これが問題よね。足音など、本人が発する音全般だとは思う。ただし、物質への適用範囲は曖昧。


 この曖昧な範囲をどう狭めていくか。


 ――剣が迫ったときに風の音を感知できたことからも、完全なノイズキャンセルはできない。どこかに穴はある。走りながら、剣の音がしているのがその証拠。まあ、剣はあいつが右手に持ったままで音がしないんだけど、鞘とベルトが音を発してる。だからあいつは銃を持ってないと思ったわけだし、実は最初に、あたしに斬りつけてきたときも、あいつは鞘を左手で握っていた。それが癖とかじゃなく、音を立てないためだとすれば辻褄が合う。


 ピンチになって、ヒナの頭脳はめまぐるしく回転していた。

 普段は考えない思考過程で、分析がされてゆく。


 ――やっぱり、そうだよね。そうなると、たぶん、あいつが音を消せる範囲はあいつの肌が触れている部分。直接触れていないと、音を消せない。あいつのズボンや衣服の内側に銃を忍び込ませている可能性もあるけど、それは取り出すのに時間がかかる。追いかけながらは使いにくい。


 パッと後ろを見て、再度確認する。

 銃を手に取る素振りもなければ、鞘は揺れてベルトの接続部が金属音を鳴らしている。


 ――わかってることその三。あいつの体力は、そろそろ限界が近い。

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