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19 『セイムテンデンシー』

 ガンダス共和国。

 首都、『千客万来の港湾都市』ラナージャ。

 晴和王国までの船が出ている巨大な港町だ。

 ようやくそこまで辿り着いたのは、旅を始めて一ヶ月半くらいが経ってからだった。

 四月の十七日のことである。

 ラナージャに入ると、まっすぐ船の予約をしに向かった。

 その日のうちに旅立つことは難しいが、早ければ翌日には船に乗れる。


「よし。明日の十時発の船に乗れることになったわ。船に乗ったら、あとは晴和王国ね」


 マギア地方の東南地域に立ち寄ることもあるので、何度か船を降りて一日、二日過ごすこともあるだろう。だが、船はまっすぐに晴和王国に向かう。


「そうだ。宿を取ってなかった」


 今晩はラナージャで過ごすことになるのだから、宿が必要になってくる。

 宿屋を探そうとしたとき。

 ピクと、うさぎ耳のカチューシャが跳ねる。


 ――なんか変な足音。なにか、探しているような、そんな足取り……。


 咄嗟に、ヒナは身を隠した。

 観察していると。


 ――人数は、二人……。


 通りに現れたのは、ラナージャ人らしくない顔立ちの二人組。性別は男。ルーン地方の人間だとすぐにわかる。

 この街は様々な人が訪れるし、ルーン地方の人間も珍しくはない。

 だが、挙動に小さな違和感が見られ、それは音にもそのまま現れている。

 視線がよく動く。

 歩行速度がやや遅い。

 二人組なのに、二人は互いを気にすることなく、当然会話もなく、別のなにかに注意を向けている。


 ――もしかしたら、あたしを追っているイストリア王国からの刺客かもね。むしろ、ここまで追っ手に出会わなかったのがラッキーだったくらいだわ。でも、いつ出会ってもおかしくはなかった。


 まだ確証はない。

 しかしそんな直感が働く。


 ――だとすれば。あたしが船に乗ることも予想して、見張っていてもおかしくないわよね。今まで一度も出会わなかったから、警戒が緩んでたみたい。全然、気づかなかった……。


 見られていた可能性。

 それがあったことをすっかり失念していた。


 ――とにかく見つからないようにしなくちゃ。船の時間も変更したほうがいいかもだけど、そんな余裕ない。今は隠れながら宿を探そう。


 こっそり動き始める。


 ――明日も見つからずに船に乗るには、遠くない宿がいいわよね。


 隠れながら宿を探すのは、知らない土地では難しい。

 さっきのイストリア人二人組から距離を取り、周囲の音を聞き分けながら歩いていると。

 良さげな宿を見つけた。


「ここがいいわね」


 中に入って。


「すみません。一泊できますか?」


 だが。

 あっさり断られてしまった。

 もう夕方だし、今日の分は、船着き場の近くだと埋まっていてもなんら不思議じゃない。

 やはりもう少し離れたところじゃないと、今からの一泊は厳しいらしい。


「はあーあ」


 ため息をつく。

 すると、《兎ノ耳》が音を拾った。


「近くに来てる。距離は……」


 タッと、ヒナは走り出した。


 ――この距離感なら、まだあたしのことは視界にも入ってなかったはず。一旦、距離を取っておかないと。


 走りながら、また耳に意識を集中する。

 音を聞き分ける。


 ――うん、さっきの二人組っぽい足音は変化なし。やや遅い足取りで歩き続けてる。あたしには気づいてない。


 角を曲がって、もう一度曲がる。

 完全にまいた。

 そう思った足を止めようとして。

 意識するより先に、ヒナの足は止まっていた。


 ――似てる……! この足音、さっきの二人組と似た感じ……。向こうから来てたの……?


 なにかを探すような足取りで、それはこちらも二人分。

 よく似たその足音は、彼らが同じ意図を持って歩いているのだと理解するには充分な根拠であり、直感でそれがわかってしまった。


 ――あの二人だけじゃなかったってことか。


 再び、ヒナは走り出していた。

 進もうとしていた方向からは別の二人組が来ているので、引き返してから別の方向に転換しなければならない。


 ――今まで、尾行をされた経験はあった。マノーラを発つまでの間に、その足音の傾向は覚えた。さっきの二人組も、今度来る二人組も、同じタイプの足音だった。でも、みんな同じなら……。


 ヒナは一つの仮説を立てる。

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