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16 『ニュースペーパー』

 馬車に揺られて、ギドナ共和国に入った。

 ルーンマギア大陸のルーン地方、ルーリア海に面する国だ。

 半島であるイストリア王国とも直線距離では近く、南にあるラドリア大陸もルーリア海を挟んですぐにある。

 ルーン地方の中では東側に位置し、さらに東へ行けばマギア地方との結び目であるソクラナ共和国に辿り着く。

 ソクラナ共和国の首都、『大陸の五叉路』バミアドを経由し、また東へ進み、ガンダス共和国の『千客万来の港湾都市』ラナージャから船に乗って、晴和王国へ行く。

 そんなプランになっている。

 マギア地方をまっすぐ通り抜けるには、(れい)(へい)(すう)の三国に分かれて争っている古代宗之国に当たる三国は危険なのだ。


「ギドナ共和国か」


 歩いたり馬車を乗り継いだりしてギドナ共和国に入ったのは、三月一日に旅立ってから二週間後――三月十五日のことである。

 この日、ヒナは街に到着して馬車を降りて。

 新聞を入手した。

 一応、新聞は毎日買って読んでいる。


「今日はなにか……あっ!」


 心臓が跳ねる。


 ――ついに、きた!


 新聞の片隅に、書かれていた。


『浮橋教授、地動説の研究を続ける。二度目の異端審問か』


 そんな見出しになっていて、裁判が行われる可能性もあるとされている。

 また、憶測らしい文章も多く、


『異端審問にかけられ、地動説は真っ赤な嘘と一度は認めた浮橋教授。しかし、地動説の研究を密かに行っていたそうで、本人に戦う意思があると聞いた学者もいるという。そうなれば裁判になるが、浮橋教授に証明する手立てはあるのだろうか。そして、宗教を非難するには何か理由があるのではないかと指摘する声もあり、浮橋教授の狙いとこれからの動きには注意が必要だと危惧する学者も多い。フェルディナンド教授は宗教を根底からひっくり返す浮橋教授の学説に、これまで培われてきた調和の乱れや宗教がゆがめられることによって起こる人権問題などに警鐘を鳴らしている』


 聞いたこともない名前の学者の発言なども掲載され、アサヒを否定的に報じている。

 ヒナは持っていた新聞の端の左右を、グシャッと握りつぶした。


「なんなのよ、この記事ッ! だれなのよ、こいつ! どこにまともな調和があるのよ! 宗教を利用して人権をふりかざしてるやつらがどの口でッ!」


 怒りが言葉になって溢れてくる。

 もっといろいろ言いたい気持ちはあったが、それをグッと堪えて、胸に手を当て呼吸を整える。

 さっきまでは怒りでいっぱいだったのに、今も怒りは消えてもいないけれど、不安で心臓が脈打つ。


「……でも、やっぱりお父さんの思った通りになっちゃった。異端審問がされることになっちゃった。お父さん……」


 異端審問がされる。

 つまり。

 裁判が行われることになってしまったのだ。

 まだ正式な決定はされていないが、裏ではその方向で決まっていることだろう。

 新聞に掲載して話題にした以上、野放しにするはずがない。

 むろん、アサヒがまだ研究を続けていたのもデタラメだが、完全に芽を潰さなければ地動説は波及しかねない。ウルバノの影響を受けて研究を始めようとしている人がいるかもしれないし、そうなると研究をやめさせるための見せしめが必要になるからだ。

 一旦ウルバノの存在を知られてしまったからには、こうした措置が執られることはアサヒも予想できていた。

 だからヒナを逃がした。

 そして、だからヒナは一度逃げて、戦う準備を整えるための旅を始めたのである。

 焦燥感に駆られながら、ヒナは考える。


 ――それにしても。


 気になることもあった。


 ――新聞に掲載されるまで、思ったよりも早かった。


 つまり、アサヒが宗教側に捕らわれたのはもっと前になる。

 おそらくヒナが旅立って二、三日の間。


 ――このスピード感を考えれば、思っていたよりもお父さんの裁判はもっと早まるよね。


 早まってしまえば、ヒナの計画はずれてくる。

 裁判までに戻ってきていっしょに戦う、ということができなくなってしまう。


 ――大丈夫……だよね? あたしが戻ってくるまでに、裁判が始まったりしないよね……?

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