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13 『テレスコープ』

 ヒナはマノーラの街を歩いていた。

 最初の目的地は駅。

 しかし、あえてマノーラの街を歩いていた。

 子供が一人で車に乗るにはめずらしい時間に、もし駅に入っていったら、駅員に記憶されてしまう可能性が出てくる。

 そのため、すぐに電車に乗るのは避けたかった。


 ――時間としては、六時半にもなれば、通学する学生たちが電車を利用する姿がちらほら出てくる。あたしが電車に乗るのも、それくらいがいいかもね。


 服装は、いつもの制服とは違う。

 晴和王国の学校に通う場合に備えて用意してあった黒いセーラー服だが、マノーラの街では目立つほどでもない。

 普段のヒナに見慣れた尾行者もすぐには判別できないだろう。

 そのセーラー服姿で街を歩いて、できるだけ自宅からは離れた駅に乗りたかった。

 そうして。

 歩き続けて。

 時刻も六時半に近づく。


 ――そろそろ電車に乗ってもいい頃合いね。でも、近くに駅もないことだし、もう少し歩いてみようかな。


 さらに十分も歩くと。

 商人が声をかけてきた。


「ねえ、お嬢ちゃん」


 市場の近くを通りかかったときだった。

 マノーラの市場は、朝の七時くらいから商売をしている人たちが多いが、古物などを扱う蚤の市では朝の五時くらいから開店しているところもよくある。

 ヒナが通りかかったそこは蚤の市であり、中心からは少し外れたところのアンティークの店であった。


「そのウサギの柄が入った筒、それはなんだい? よければ言い値で買うよ」

「ダメよ。これはあたしの相棒なの」

「残念。で、それはなんだい?」

「これは望遠鏡っていって、遠くが見えやすくなるものよ」

「へえ」


 虫眼鏡やメガネは存在するし、商人はそうしたものが筒状になっているのを想像しているのだろう。


「つまり、虫眼鏡のレンズみたいなものかい?」

「そ」


 返事を聞くと、商人は興味を失ったようだった。

 虫眼鏡くらいは珍しくもないし、ヒナのような子供が持っているもので、しかも虫眼鏡と同じ性能でそれだけ大きいとなると、おもちゃの類いだと思われたのだろう。

 だったらちょっとシャクだが、変に目をつけられるよりはいい。

 どれだけ素晴らしいものか語りたい気持ちをぐっと堪えて、ヒナは「じゃ」と歩き去る。


「あぁ、うちの商品を見て行かない?」


 慌てて呼び止める商品を振り返ることなく、ヒナは店を離れた。

 おしゃべりを続けて、変に顔を覚えられても困る。だからさっさと先を急ぐに限る。

 カチューシャのウサギの耳を揺らして、


 ――まずは列車。ここからだと……あの駅が近かったかな……。


 と近場の駅に向かう。

 途中、子供が飛び出してきた。

 しかしヒナのウサギの耳は特別なもので、子供の飛び出しがあることも音で判別できた。ピタッと足を止める。


「おあっと! ごめんな、お姉さん!」

「こら、リディオ。気をつけなよ」


 二人の男の子のうち、元気そうな子が飛び出してきたのだが、運動神経がいいのか反射神経がいいのか、ぶつからずに済んだ。もしヒナが気づかず歩き続けていても衝突は避けられただろう。


「そうよ、気をつけなさい」


 すでにもう一人の男の子に注意されていたがヒナもそれだけ注意して、すたすた歩いて行った。


「賑やかなこの街とも少しのお別れね」


 後ろでは、さっきの男の子の声が聞こえる。


「はい、ごめんなさい!」


 続けて、


「なあ、ラファエル。さっきの細い筒、なんかかっこよかったぞ! あれ、なんだろうな?」


 ともう一人の男の子にしゃべっていた。


「ウサギの柄があったね。実用品ではなく、芸術品かな?」

「そんな柄があったのか。なんだろうなー」


 ヒナは《兎ノ耳》でこれを聞いて、満足そうに鼻を鳴らす。


 ――ふふん。見た目もいいけど、実用品よ。でも、よく見てたわね。もう一人の子。


 案外、さっきの商人より見る目があるかもしれない。


「見えた。駅だわ」


 ヒナは列車に乗って、北に向かう。

 マノーラを出たのは、旅立ったその日で。

『水の都』ヴェリアーノには、その日のうちに到着した。

 しかしこの先、列車はない。

 列車が走っているのは世界中でも主要都市など一部であり、ここからは徒歩や馬車を乗り継いでの旅になる。


「楽なのはここまで。さあ、この先は気合よ。まずは、ちょっと寄ってみたいところがあるのよね。この街で」

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