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7 『リターンシャルーヌ』

 ウルバノがシャルーヌ王国に帰った。

 それを聞いて、アサヒは驚いた。


「そうなのかい?」

「うん」

「どこで聞いたんだい?」

「街で、いつもみたいに夕飯の買い物してたら、お客さんがしゃべってるのが聞こえた」


 どうやら変なところに首を突っ込んで聞きつけたわけでもないらしい。


「しかし、そんな噂になるほどとは……」

「なんかね、最近このマノーラに戻って来たって学者さんが、家が火事で燃えちゃって研究どころじゃなくなって、またシャルーヌ王国に帰るみたいって。主婦の人たちの噂って早いからね」

「なるほど」


 だが、こうしたデリケートな話をしていても、ヒナは困惑した様子を見せない。

 本当にただの噂話が聞こえてきたということだろうと思い、アサヒは神経質に危機感を抱かなかった。


「うん、そうだね。彼のためにも、ここから離れたほうがいい」

「だね」


 それっきり、ヒナはウルバノについてはなにも言わなかった。

 これ以上の情報もないからだろう。


 ――ウルバノさんがシャルーヌ王国に住んでいたのか、とか……聞きたいことはあるだろうに。ヒナも触れないようにしているんだな。でも、それでいい。このままなら……関わらなければ、危険はないんだから。


 ウルバノは、イストリア王国の生まれだった。

 しかし、いくつかの研究をしたあとで、シャルーヌ王国に移った。

 なぜシャルーヌ王国だったのかは詳しく聞かなかったが、ウルバノは数学者でもあったから、そのせいだろう。

『軍人皇帝』フィリベールは数学が好きで、学者への援助も惜しまない。

 変人だと言われるシャルーヌ王国の現国王に、直接的にかはわからないが、声がかかったのだと予想できる。

 そんなウルバノも数学から離れればまたイストリア王国で研究したかったのかもしれないが、結果は惨憺たるものになった。

 が。

 シャルーヌ王国に戻れば、執拗に攻撃をされることもないだろう。




 世界を構築する論理は、常に正しいとは限らない。

 むしろ、間違っている点や隠されている点があるからこそ、それによって世界を支配し、さらに自分たちが構築した論理を巧妙に活用して利権を生み出すこともできるのだ。

 ゆえに。

 正しいことを提示すると、どこかで世界を構築していた論理が崩れる。ドミノ倒しのように崩れて、支配構造すら破綻する。

 それをさせないためにも、宗教や世界の真理を謳い、時に人々を恐怖に抑えつけ時に人々を綺麗事で煽動し、情報を統制して、真実を究明しようとする異端者を封殺しなければならない。

 アサヒはこうした世界の裏側を学者として知り、家族すなわちヒナを守るためそれに抵触しない分野で研究することにしたのだが。

 どうやら、今回の件では、ウルバノがシャルーヌ王国に戻ったことで裏側での策動は止み、アサヒの二度目の異端審問は避けられそうであった。


 ――春……三月の半ばにも、ぼくとヒナは晴和王国に帰る。このまま、何事もなく過ごせますように。

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