4 『インバイトウルバノ』
学者、案常呂潤葉延。
アサヒのかつての研究仲間であり、旧友である。
年はアサヒと同じ。
友人の少ないアサヒが信頼できる数少ない人だった。
雰囲気はアサヒに比べて人当たりがよさそうで、ヒナにも気さくに話しかけてくれた。
「初めまして。案常呂潤葉延です。ウバルノって呼んでください」
「ヒナです。本日はようこそお越しくださいました。よろしくお願いします」
「ふふ。そんな硬くならなくていいよ」
「はい」
ヒナもはにかみ、それからウルバノを食卓に案内する。
腕によりをかけて作った夕食は、ウルバノを驚かせた。
「おお、これはすごい。晴和王国の料理か」
「はい。どうぞ」
さっそく料理をいただくと、ウルバノは「おいしい」と喜んだ。
この日、アサヒとウルバノはいろいろな話で盛り上がった。
その内容は、ヒナにわかるものもわからないものもあったが、どれも興味深いものだった。
特に星に関する話は興味が尽きない。
「そういえば」
とウルバノは切り出した。
「なんだい?」
「アサヒさんは、昔、地動説について記した本を書いたことがあったよね?」
「ああ、あったね」
「そのとき、地動説は証明しきれなかったんだろう?」
「そういうことになるかな」
「でも、今も、地動説に確信を持ってる。違うかい?」
「そうだね。それは今も信じてるよ。ただ、やはり材料不足の感は否めないがね」
「わたしもそれについては同じ意見だ。もう少し補強できるといい」
「まさか、それをいっしょに研究しようと?」
アサヒの問いに、ウルバノはおかしそうに笑って首を横に振った。
「いいや。そうしてくれると嬉しいが、まずはわたし自身それを研究してみたい。それ以上に、もっともっと学者たちが率先して研究すべき問題だと思う」
「だれかが、真実を究明してくれるといいね。ぼくも一旦、今の研究が終わったら手を着けるのも悪くないしさ」
「ああ。そうしてくれるとありがたい。とにかく、学者たる者、目の前に正しいと思える仮説があるのなら、究明すべきだと思うんだよ。だからわたしは今日、ほかの研究者たちに対して言ったんだ。ちょうど学会があったからね。大勢の人が聞いているし、これを機にほかにも研究する人が現れることを期待して、『地動説は論理的に筋が通っているし、研究するに値するものだ』と」
二人が地動説の話を始めたとき。
ヒナはこの仮説について思い出す。
――昔、お父さんに聞いたら教えてくれたっけ。おもしろいし、もっと知りたいけど、完璧な証明はできていないんだよね。ウルバノさんが証明してくれたらすごいなあ。
ウルバノにも期待しながら、
――でも、お父さんが証明してくれたらいいな。なんて。
と思うのだった。
この晩、ヒナが眠たくなってベッドに行ったあとも、ウルバノとアサヒは遅くまで語り合った。