3 『オールドフレンズ』
一月の末日。
夕食時、ヒナは父の機嫌がよさそうだったので、なんだか自分も嬉しくなってきて質問した。
「お父さん、なんか良いことあった?」
「はは」
小さく笑って、アサヒは答える。
「少し、良いことがあった」
「へえ。なに?」
「以前、お父さんと研究をした仲間がマノーラに戻ってきたんだ」
「そっかあ。よかったね!」
「ああ。普段は別々の場所で別の研究をすることになるが、昔の仲間に会えたのが嬉しかったんだ」
「その人とはどんな研究をしてたの?」
「星の研究だ」
「星!?」
天文には興味津々なヒナは、それを聞くともっと教えてほしくなる。
「今、お父さんは物理学の研究をしているが、その仲間とは星の研究をしていたんだ。月の観察だね」
「あれか」
父の出した本はよく知っているため、ヒナはすぐにピンときた。
「今度また会おうと話してね。互いに研究ばかりで周りが見えないたちだから、いつになるかはわからないけど」
「よかったね」
と、ヒナはまた言ったのだった。
ヒナの知る限り、父のアサヒは友人が少ない。不器用で周囲に合わせることが苦手で、熱中すると周りの声さえ聞こえないことがある。
友人が少ないのはヒナ自身もそうだが、父に再会を喜べる友人がいて、父の機嫌が良いことがヒナには嬉しかった。
しかし、この再会はとある問題を引き起こすことになる。
数日後。
ヒナはマノーラの街を歩いて回り買い物をしていた。
「この前の和食は好評だったし、今日も和食にしようっと」
先日、ヒナは父のために和食を作ったのだが、これが好評でまた作ってほしいと言われたのだ。
元は自分が晴和王国を懐しく思って食べたくなっただけなのだが、こうして和食を作ったりしていると、母のことも思い出されて、晴和王国での自宅での日々が思い出されて、なんとも言えない幸福感があった。
「和食の食材ってどこにでもあるわけじゃないし、毎日作れないのが残念だなあ。でも、今日はお客さんが来るんだもん、気合入れないと」
――なんて言っても、お父さんの研究仲間の友だちだからね。
父の研究仲間で旧友だという学者が、今日は家に来ることになっていた。
本当は外で食事をしてきてもらってもいいのだが、ヒナがいるからということで、家に来ることになったのだろうというのも想像に難くない。
だからヒナも余計気合が入っているのだ。
――お父さんの少ない友だちには、美味しい物を作ってあげないとね。
通りを歩いていると、マノーラ騎士団がいた。
騎士団長のオリンピオだ。
彼は市民からも信頼厚い存在で、ヒナもこの人がいるからマノーラでも安心して暮らせていた。
――オリンピオ騎士団長、相変わらずの人気。オリンピオ騎士団長がいるからマノーラは平和なのよね。……いや、あれの存在もあったか。『ASTRA』。
秘密組織『ASTRA』。
――あたしは詳しく知らないけど、少し前にこの地に現れた秘密組織。昔好き放題やってたサヴェッリ・ファミリーを追い出して、今はマノーラ騎士団と協力しながら治安維持に努めているって話だったわね。トップのヴァレンは超有名な『革命家』、その左腕と右腕のレオーネとロメオはコロッセオで人気の魔法戦士でもある。なんなのかしら、『ASTRA』って。人気と噂だけはすごいけど、一般人のあたしたちにはわからないことばっかり。まあ、あたしには関係ないからなんでもいいけど。
噂はよく聞くがあまり知らない『ASTRA』。彼らについて考えるのも早々に切り上げ、ヒナは目的のお店に来た。
「あ、味噌がある。味噌汁作れるっ! やったっ!」