2 『マノーラスクール』
学校から帰ってきて、ヒナは昼食を取ると、本を開いた。
父が書いた本を読み始める。
「ふうん。なるほどね」
本から目を上げる。
「わかんない」
テーブルに置いていたほかの本を手に取り、パラパラとページをめくり、口先をとがらせた。
「どういうことなんだろう……」
ヒナは、いつもそうやって、父の本をちゃんと読めるようになるために勉強をしていた。
父の本を通じて科学の知識を吸収するので、学校では同級生の中ではだれよりも理数系に強かった。だから、学校の勉強は物足りないことが多い。
「この本でもわかんないってことは、こっちか」
開いた本を横によけ、今度はまた別の本を開く。
ところで、ヒナが現在住んでいるのは、ルーンマギア大陸の西方、ルーン地方にあるイストリア王国の首都、『永久の都』マノーラである。
ルーンマギア大陸はこの世界で最大の大陸であり、西側がルーン地方、東側がマギア地方と呼ばれている。
この大陸を左右から挟むように、二つの島国があった。
西側にアルブレア王国。
東側に晴和王国。
ちなみに、アルブレア王国の西方にはさらに別の大陸があり、メラキア合衆国といった大国を要するメラキア大陸が南北にあるのだが、ルーン地方にもその南にはラドリア大陸があり、ほかにも様々が島国があった。
つまり、ヒナの故郷である晴和王国と、現在の住んでいるイストリア王国ではかなりの距離があるのだ。
しかし、この世界における言語は世界共通で、一説には晴和王国に起源があるとも言われるが、文化や風習など各国でそれぞれの個性を出している。
ここイストリア王国のマノーラでは、学校の習慣も晴和王国とは異なっている。
晴和王国では寺子屋のような学習塾と武道の道場が合わさったような学校が一般的で、就学率も七割ほどもあり、基礎学力に重点を置き、世界でももっとも識字率が高い。
お金がないと学校で学びを得られない世界の国々と違い、晴和王国では家業のためなどあえて通わない選択をしない場合や周囲に学校がなく通学できない環境にある子を除けば、ほとんどの子が文字を学び数字を学び、心身を鍛えている。
一方で、ルーン地方やメラキア合衆国といった西欧諸国では、基礎学力向上よりも専門知識を学ぶことを目的に就学する。
西欧諸国の学校は学院として、中流階級以上でお金に余裕があるか教育に力を入れている家の子供たちが通うのだ。
そのため就学率も三割ほどしかない。
大学や大学院に似た性質と言えるだろうか。
とはいえ、晴和王国でも西欧諸国でも、早ければ十歳くらいから働き始めるため、平均で十二歳から十五歳くらいまでを学生として過ごす場合が多い。
中には二十歳くらいまで学生をする者もいるが、それは専門的な分野や研究の道に進むケースだ。
ヒナの通う学院は、『セレーナ女学院』。
午後の授業を取る日もたまにあるが、ほとんどは午前中のみの授業で昼に帰宅する。
この日もヒナは昼に帰宅し、食後には自分の勉強をしていたのだ。
「まだ理解が足りないなあ。このあと、図書館にでも行こうかな」
両腕を上げて、大きく伸びをする。
「うーっと」
立ち上がり、ヒナはコーヒーを淹れる。
「あ。そろそろコーヒーなくなる。ついでに買い物も行こうっと。晴和王国に帰るって話もして、晴和王国の食事も恋しくなっちゃったし、今夜は和食でも作ろうかなー」
ヒナはカレンダーを見て、晴和王国に戻れる日を心待ちにした。