308 『ミッドナイトスカイ』
星の瞬く夜更け。
サツキはロマンスジーノ城の屋上に出て、空を見上げていた。
夜風が心地よい。
そこに、足音が近づいてくる。
「どうした?」
尋ねると。
「別に」
と返された。
「ただ、あたしも星を見たかっただけ」
ヒナはそう言って、サツキの横に並んだ。
二人で星を眺めながら、少しの無言のあと。
「改めてさ。今日は、ありがとう」
「ん?」
なんのことだかわからずサツキを首をかしげると、ヒナはちょっと怒ったように付け足した。
「あんな危険な中、戦ってくれてありがとうって言ったのっ!」
「士衛組は正義の味方だ。当たり前じゃないか。アキさんとエミさんが宣伝してくれたように、士衛組の活躍は俺たちが成すべきすべてにつながる」
「お人好しで正義感ばっかり強くて、そんなんじゃ死ぬわよ」
「仕方ないだろ。それが、俺がこの世界に喚ばれた意味なんだから」
淡々とそう言うサツキに、ヒナはたまらなくなる。
「やっぱりサツキってバカよね」
「そのまま返すよ」
「……なにそれ」
「正義感が強いのはヒナも同じだってことさ。どうせ、俺に出会う前から無茶ばかりして、大変な道を歩いてきたんだろ」
さっきまでの自分を語る淡々とした調子とは違い、どこか柔らかくて優しい声だった。
ヒナは、わかってくれてうれしいのか、昔が思い出されて切ないのか、自分でもわからない声で言った。
「せっかくだからさ。教えてあげるわよ。あたしがどうして旅を始めたのか。サツキに出会うまでのことを」
星々の瞬きを見つめ、ヒナは昔を思い返した。
夜はさらに更けてゆく。




