307 『ファーストフェーズ』
夜。
ロマンスジーノ城の一室にて。
この日の事件のおおよそが解決され、マノーラ騎士団と『ASTRA』によって街の修復もだいぶなされたが。
一連の解決は済んでいない。
すべてが終わったわけではない。
「さすがに、宴も深い時間まではやれない。なぜなら明日には裁判が控えているからね」
「ああ。当然だ」
なにかをノートに書いているロメオに、レオーネは言葉を続ける。
「今回の件は、裁判に勝たなければ終われない。つまり、本当の宴は裁判が終わってからになるね。だがまずは、サヴェッリ・ファミリーとアルブレア王国騎士、そこに絡んでいた宗教サイドとの戦いの第一段階は終了した。サツキとミナト、そして士衛組の活躍によって武力は排除された」
「これで、残るは裁判のみになったわけだ」
「すなわち、第二段階がそれになる。ただ、それらの斡旋をしていた人間たちはつかめない。裏側のつながりを解体するどころか、暴くことさえできていないのが現状。おそらくそれをする組織はもっと世界規模の悪党だぜ」
「それこそ、平和だった晴和王国を内部から破壊しようと工作員を送り込み、反乱軍を育て、維新なんて言葉で煽動し倒幕を果たした連中と同じだろう」
「しかし、やつらは新政府の樹立をできなかった。晴和王国の志士たちが戦国時代に戻したことで、長斑ノ国よる代理支配計画は失敗したわけだが。それで諦めるやつらでもない。今も晴和王国のどこかの国々で工作活動を続け、仕掛ける時期を待っている。鷹不二氏や碓氷氏にはそんな狡猾な連中には負けないでもらいたいね。場合によっては、鷹不二氏と碓氷氏で争っている隙に乗っ取られる可能性もあるわけだし、そうなれば『幻の将軍』の力さえ借りてでも共闘しなければならない展開だってあり得るしさ」
「彼らなら大丈夫だと思いたいが、その時にならねばわからないこともある」
「まさに、アルブレア王国のようにね。連中は世界を支配するつもりだから、当然アルブレア王国もターゲットだ。現在進行形でアルブレア王国を乗っ取ろうとしている」
「ワタシたちも、彼らの正確な正体まではつかめていない」
「それが厄介なんだ。連中との戦いの第三段階は、アルブレア王国を守ることであり、同時に正体を突き止めること」
「同時にいけばいいが」
「士衛組はアルブレア王国を賭けた大きな戦いをすることになるんだ。手がかりはつかめるさ。おそらくね」
「士衛組は正義の味方だ。きっと勝つ。ワタシたちもついているしな」
「『ASTRA』だって正義の味方だぜ。マノーラの平和を守る正義の味方であり、世界の平和にも一役買い、世界をよりよい方向へと導く革命家でありたい」
「そうだったな」
「そのためにも、考えるべき正義とはなにか。オレはそれをずっと探していた」
ロメオの記憶でも、レオーネはそうしたことを何度か口にしていた。
だが。
「だが、昨年は『わからないことばかりだ』と言っていたな」
「アキとエミに出会った頃だな。当時は、リディオとラファエルも情報局として活動する前だった。しかし、今は以前とは比較にならないほど爆発的に情報が集まるようになり、世界の支配を企み暗躍する存在がいることに気づけた。だからこそ、今は、マノーラの平和を守りながら、やつらから世界を守ることが『ASTRA』の使命だと確信してるよ。したがって、やつらと戦うことが最終段階ということになる。いったいいつになるのかもわからないけど」
「鷹不二氏や碓氷氏じゃないが、その目的のためにも、我々も士衛組とは協力していきたいものだな」
「そうしたいね。明日がどうなるかはわからないが、ヴァレンさんも動いている。士衛組には、是非ともこの世界に風穴を開けてもらいたいところだ。まずは、裁判でさ」
「裁判なら、士衛組というより浮橋教授だろう」
「そうだね。噂ではシャルーヌ王国もこの裁判には関心を寄せているらしい」
「国王フィリベールさんは、『軍人皇帝』の異名を取るが学者肌でもある。好奇心が刺激されているのかもしれないな」
カードをシャッフルしてなにかしているレオーネに顔を向け、ロメオは手を止めて質問した。
「占いか? レオーネ」
「ああ。明日の裁判について。アキとエミが宣伝して回ってくれたおかげで、士衛組の風向きもいい。やはりあの二人の影響力はすごい。『ASTRA』が噂を流布するより効果があるんだからね。不思議なものだよ。だが、それだけで勝てる裁判でもないだろう?」
「だな」
レオーネはカードを一枚引いて、薄い微笑を崩さず、つぶやく。
「なるほど。聞きたいかい? ロメオ」
「おまえの占いはよく当たる。聞かせてくれ」