306 『ポストプロセッシング』
リラがマノーラ騎士の一人とまた作業に戻り、サツキはルーチェとオリンピオ騎士団長の元へと向かった。
ルーチェが尋ねる。
「すごい方たちと続けておしゃべりして、お疲れではありませんか?」
「みんな個性的ですからね」
「少し休まれてもよいと思いますよ」
「いいえ。大丈夫です。ルーチェさんはいつまで俺についていてくれるんですか?」
「みなさんをロマンスジーノ城にお連れするまでです」
「すみません」
「謝らないでください。ワタクシは望んでサツキ様に付き添っているのです。あ、オリンピオ騎士団長がいますよ」
「行きましょう」
「はいっ」
二人はオリンピオ騎士団長のところへ行く。
そこでは、士衛組の代表として副長のクコがいた。
また、オリンピオ騎士団長とは近い場所に新人隊士のエルメーテもおり、こちらはヒナと共に行動している。より人目につく場所にヒナがいることは、明日の裁判を考えた上での宣伝としても理に適っている。
「!」
ヒナのうさぎ耳がピクッと跳ねて、振り返った。
この耳はカチューシャだが、ヒナの魔法《兎ノ耳》を使うための媒介にもなる道具で、これが反応したのだ。
「サツキ」
「え? サツキ様?」
クコも顔を向け、オリンピオ騎士団長とエルメーテもサツキたちに気づいた。
最初にルーチェがぺこりとお辞儀をした。
「お待たせいたしました。サツキ様がおかえりです。状態も良好、治療もバッチリです」
「そうでしたか、ありがとうございます。ルーチェさん」
安心した様子のクコ。おそらくサツキの顔を見ただけでそこまでわかっていたことだろう。
「おかえり。サツキくん、ルーチェくん。元気みたいでよかったよ。こちらは手も足りているし、あとはやるべきことも少ない。休んでいて構わないよ」
「そうですよ。僕らに任せて、安静にしていてください」
二人にそう言われても、サツキはなにかしたかった。
ヒナはそんなサツキを皮肉っぽい笑顔で、
「どうせ、手伝わせろって言うつもりでしょ」
「わかるか」
「当たり前じゃない。まあ、でもいろいろ片づいてきたのは確かよ。考えてもみなさい。あの『ASTRA』が動いているのよ? あんたの出る幕なんてないわ。だから、その辺に突っ立って、マノーラ騎士団のところに来た人たちに挨拶していればいいわ」
顔を売るという意味でも、それは効果がある。
しかもやることがもうあまりないとなれば、サツキがやるべきこととしてはもっとも望ましい。
オリンピオ騎士団長も大きくうなずく。
「ああ、それがいい。ルーチェくんはマノーラでもよく知られているし、二人でいっしょに立っていれば、マノーラ騎士団を頼ってやってきた人々も安心できるだろう」
「かしこまりました。サツキ様、このルーチェにすべて任せてくださいませ。本日もっとも活躍なされた英雄はどんと構えているのがちょうどよいのです」
「は、はい」
意外とルーチェは押しが強いというか、パワフルだと思った。
つい流されるように返事をしてしまった。
ルーチェがエネルギッシュなのかサツキが疲れているのかはわからないが、ここはルーチェに甘えて彼女に委ねることにした。
オリンピオ騎士団長たちが動き出すと。
サツキはルーチェといっしょにマノーラ騎士団の本部前で待機しながら、訪れる人たちに備える。
そのあとは、ルーチェが応対もすべてやってくれるので、サツキは本当にほとんどやることもなかった。
しかもルーチェは、この日の活躍はすべてがサツキの手柄かのように人々に吹聴する。しかし会話の中で自然と話すから、サツキはその横で恐縮するばかりだった。
そして。
また少しすると、今度は賑やかな声が聞こえてきた。
――この声は……。
少し先にいるヒナも気づいているようで、
「あれからずっと会ってないと思ってたけど、どこに行ってたのよ」
などとぼやいている。
声の主は姿を現す。
それは二人。
アキとエミだった。
「あ! サツキくんじゃないか!」
「今日の主役にやっと会えたね!」
「おーい! ボクらはさっきまで、サツキくんたち士衛組の活躍をみんなに教えて回ってたんだよー!」
「本当に頑張ったみたいだねー! 街を守ってくれてありがとーう!」
「このあと、ロマンスジーノ城で宴だってさー!」
「早く帰ろうよー!」
手を振りながらこちらに駆けてくるアキとエミの無邪気さに、サツキは少し照れたように手をあげて応えた。




