305 『フィフティフィフティ』
思いがけない人物の登場に、リラは驚いた。
するりと会話に混じったその人物というのは、碓氷氏の軍監、『大陰陽師』安御門了明だった。
「お疲れ様どす。サツキはんにリラはん。それに、ご無沙汰どすなあ、ルーチェはん」
「これはこれは。リョウメイさんまでご足労いただき、恐縮です」
落ち着いているのはルーチェとリョウメイばかりで、リラはびっくりしてリョウメイからサツキに視線を移し、サツキも最初になんと言えば良いのかわからなかった。
「リョウメイさんも、今回はありがとうございました」
まずはお礼を述べると、リョウメイはせせら笑った。
「なんのお礼など要るものかと、鷹不二氏も碓氷氏も思っとるところや。それぞれに思惑あってのことどす」
「思えば、今日、リョウメイさんに出会ってから始まりましたね」
振り返るようにリラがつぶやく。
それには答えず、リョウメイは話を戻した。
「サツキはんは充分過ぎるほどようやったと思います。むしろ、オウシはんの読みにスサノオはんが勝たなあかんかった。スサノオはんはカリスマ性と直観で動いてまうからなあ。それで今まではうまくいったし、対オウシはん以外では平気なんやけど、最後のやり取りでサツキはんに念押しして意識させて、五分五分まで持って行ったわけや。さすがやなあ、オウシはんは」
「途中、いろいろ教えてくださって、リョウメイさんは占いでもまだ鷹不二氏と碓氷氏は五分五分だとおっしゃってましたよね」
そんな義理はないはずなのに、リョウメイはその辺のことをリラに講義してくれたのだ。
「まあ。うちもその辺見越して、アルブレア王国第二王女のリラはんと片時も離れんよう注意しておいたし、味方との合流まではちゃあんといっしょにおれたわけやし、そういう意味でも士衛組とニアリーイコールでアルブレア王国も押さえとるから、うちの占いでもまだまだ士衛組は五分と五分で、どちらにも偏ってないねん」
「そうでしたか」
どちらかと対立などしたくないリラとしては、ちょっとホッとした。
ただ、リョウメイはまだ他にも思うところはある。
――もしここに『臥龍』トウリはんがいたら、完全に鷹不二氏に偏ったところや。助かったわ。
サツキの読み負けとオウシ対スサノオの見解は、リョウメイが一番冷静に見られていた。
そのリョウメイ曰く。
「うちもそろそろ行くけど、最後にちょっと。サツキはん、今回、なんや怪しいもんに関わっとったやろ。あれは危険どす。けどまあ、呑み込まれんで済んでよかったわ」
「あれ、ですか。それならよかったです」
あれ、とは間違いなく『悪魔』メフィストフェレスのことだ。
怪異を見ることができ、怪異を使っていろいろなものを読み解くことができるリョウメイにそう言われて、今度はサツキがホッとした。
別にメフィストフェレスを必要以上に恐れていたわけじゃない。
しかし、得体の知れない恐怖感があって、それも最初だけで、徐々にその感覚が薄らいでいき、最後には危うく彼の申し出を承諾しそうになってしまったのだ。
やはりただの優しい『悪魔』でもないが、狂った『悪魔』でもない気もして、結果あの判断は正しかったのだと思えて、今になって変に安堵していた。
「鷹不二氏はこのあとも構ってくるやろ。計算ばかりじゃなく、親しみをもって近づいてくる。悪い人らでもない。そして、うちらも仲良うさせてもらいたいと思っとる。うまぁく、双方と距離を取って付き合うことやな。それと、まだもう少し我慢の時は続くけど、頑張るんやで。きっと大丈夫や。ほな」
サツキとリラがお礼を言って、リョウメイは歩き去った。
だが、サツキは少し疑問を覚える。
――助言はどれもありがたかった。碓氷氏の助力にも感謝だった。でも、最後……まだもう少し我慢の時は続く? それは、どういう意味だろうか。
 




