302 『プレイズアコンプリッシュメント』
「むぅ」
と。
声には出ていないが、ルーチェがちょっと悔しそうに小さく頬をふくらませた。
オウシがうまいこと会話をつなげたことが気に入らないらしい。
サツキは、しかしそれには気づかないフリをして、オウシの目を見る。
「わざわざどうも」
「おう」
軽くうなずき、オウシは言葉を継ぐ。
「スモモから聞いた話によれば、うちの衆たちも今回はそれぞれが微力ながら士衛組の為になる働きができたと、充実した様子であるらしい」
「皆様の働きには助けられました」
リラが相槌を打つ。
「で、あるか。わしらにしてもな、こうしたイレギュラーな実戦経験などなかなか得られるものではない。良い経験をさせてもらって、こちらこそ礼を言うぞ。感謝じゃ」
「お礼を言っていただくほどのことでは」
「それから激励の言葉じゃが」
言葉を切って。
オウシは悠然と空を見上げる。
一つ間を置き。
「明日の裁判、頑張って戦えよ。わしにはまだまだ宇宙のことなどわからぬが、興味もあることでな。いろいろ究明されれば個人としても嬉しく、楽しみでもあるのじゃ。なにより、わしは、それにスモモやヤエ、むろん我が弟のトウリやウメノなども、士衛組を特別好ましく思っていてな。是非とも羽ばたいてもらいたいのじゃ」
なんということもない。
こうした激励の言葉は、ありがたいばかりだ。ルーチェの懸念などなにも杞憂だったのだ。
そう思ってサツキが返事をしようとしたとき、オウシはサツキのしゃべり出すのに気づいていたであろうのに、話を続けた。
「いっそう羽ばたいて、結果その羽ばたきは士衛組の力ともなり、お主らの願いが成就する糧ともなろう。ここで言う羽ばたきとはな、世間の評価なんぞも加味した士衛組の浮上のことじゃ。それゆえ、明日の裁判はその最初の一歩。言わば大きく名を上げる足がかり。いや、今日のこの活躍こそが足がかりで、明日からの裁判での勝利こそが跳躍になるのじゃ。わかるかの?」
問いに、サツキが答えようとして。
またオウシはなにも言わせず語を継ぐ。
「大事な跳躍の機会ゆえ、わしらはなんとか力添えしたかった。その心は、サツキ、お主はわかってくれよう。明日からの活躍を見られれば、わしらも骨を砕いて共に戦った甲斐もあったと、喜べるというもの。わしはサツキの輝く姿が見たかったのじゃ。それゆえにな、影ながら、そっと、サツキの役に立てることはないものかと動いてきたのじゃが、今日のお主らは本当に見事な活躍をしてくれた。天晴れじゃ」
うっ、とサツキは言葉に詰まる。
今度は口を開こうとして遮られたのではなく、なにも言えずに、オウシに続きをしゃべらせる形になってゆく。
その続きというのがまた絶妙で。
「先のチカマルもよく褒めたが褒め足りぬ。敵の親玉を二人も倒したその戦い、この目で見たかったものじゃ。しかしスサノオというのは、あいつも困ったもので、ミナトのピンチには黙っておれぬやつでな、お主ら士衛組の活躍の場さえ気にせず奪ってすべて一人で片づけていたところじゃ。わしが止めねばな。まあ、じゃが、あれも悪いやつではない。士衛組は、今のところはわしら鷹不二とスサノオら碓氷の両方と中立におればいい。お主らはきっと、いずれ晴和王国でも頭角を現すと易者が言ったゆえ、その際にはわしらと仲良くしてくれると嬉しいが、どの道を選び歩んでゆくのかはお主ら次第」
そこで、チカマルがすっと口を挟む。
「オウシ様。そろそろお時間です」
「おっと、そうじゃった! りゃりゃ、しゃべり過ぎたな。ではまた会おう。ミナトにもよろしくな」
「それでは失礼いたします。ご健闘をお祈り申し上げます」
サツキたちの返事も聞かず。
オウシとチカマルはさっさと身をひるがえして去ってゆく。
慌てて、サツキとリラは一礼した。
「ありがとうございました」
声をそろえて礼を述べ、二人を見送るのだった。
しかしなんという手際であろうか。
この会話だけで、サツキはオウシにしてやられたことをまざまざと実感した。
――あの人、そこまで考えて動いていたのか……。やられた。
 




