301 『チットチャット』
サツキがルーチェに伴われて《出没自在》でリラの元へと戻ってくると。
そこには。
オウシとチカマルがいた。
どうしてリラが彼らといっしょにいるのか、サツキは疑問に思う。
だが、オウシが先手を打つように教えてくれた。
「久しぶりじゃな。サツキ。実は、スサノオと戦ったあと、たまたま通りかかったらリラがいたんじゃ」
「リラ様がマノーラ騎士の方といらっしゃったので、少しお話を」
と、チカマル。
戦いの事後処理は士衛組も参加しており、士衛組隊士はそれぞれがマノーラ騎士の人間と行動することになっていた。
そうすれば、マノーラの人々もマノーラ騎士団を通して士衛組を知って受け入れてもらいやすくなり、士衛組が事件解決をしたことをマノーラ騎士が宣伝できるからだ。そうした提案をわざわざオリンピオ騎士団長が自らしてくれて、リラもそのように行動していたのである。
今はオウシとチカマルが現れ、リラが二人と話すというので、同行していたマノーラ騎士は近くに控えていた。
まずサツキは、お礼と共に挨拶を返す。
「こんにちは。今回は、鷹不二氏のみなさんには大変お世話になりました」
「で、あるか。構わん構わん。最初から丁寧に挨拶するとは、律儀なやつじゃな」
どれほど助かったのか。
それを話すのも礼儀や交流の一部になるかもしれないが、良いことばかりではない。
鷹不二氏に貸しを作ったことはサツキもよく理解しているので、つけ込まれる隙を見せないためにも、あえて自分から解説することもない話だ。
なにも言わないのが正解だろう。
チカマルも微笑を携えて、
「まさかサヴェッリ・ファミリーとアルブレア王国騎士、双方を倒してしまうとは驚きでございました。ミナト様の凄さはそこそこに理解しているつもりでしたが、お二人のご活躍は並々ならぬものでございましたね」
「いいえ。共にマノーラで戦ったすべての方たちのおかげです」
「サツキ様も人格者でございますね」
側近のチカマルは、まだ十一歳ながらオウシに見出されて取り立てられた秀才といえる。
その明晰さは『賢弟なる秘書』とささやかれ、幼いのにオウシの秘書官を立派に勤め上げるほどだ。
可愛らしいおかっぱの髪に少女のような線の細い顔立ちで、卒もなく鷹不二氏のみなに愛されている。
あまりの卒のなさを、ヤエなどは可愛げながないとも揶揄するが、それも反面事実であり、どこまでも目端と心遣いが行き届いた少年なのである。
「俺など全然です。リラはなにを話していたんだ?」
サツキがリラに水を向けると。
リラは「はい」と答える。
「先程までいっしょだったスモモさんのことや、雑談を少々」
「そうか」
ルーチェの目がオウシを素早く観察し、サツキに視線を投げた。次に行こうという合図だ。
「スモモさんも帰られて、みなさんお忙しいでしょうし、俺たちは……」
切り上げようとしたとき。
オウシはあけすけに笑い出した。
「りゃりゃ! 忙しいものか。わしらの仲じゃ、気にするな」
一歩前に進み出た、というわけでもないが、ルーチェがサツキの横に来て、にこやかに、
「いえいえ、そうは参りません。ワタクシたちが事後処理をせずに立ち話をしていては申し訳なく、人一倍真面目で働き者なサツキ様も可愛らしくそわそわしてしまっております。今はサツキ様の羽として付き添う『メイド秘書』ルーチェ、二つの意味でもお二人をお引き止めするなどとてもできません」
なにかを察してこの場を離れたがっているらしい、とサツキは気づく。
同様に、リラもそれに気づいた。
だが、オウシはなにを考えているのかわからない顔で、照れたように頭をかく。
「で、あるか。そうじゃな。その生真面目さ、愛いヤツよ。して、サツキ。それゆえお主にわしからも礼と激励の言葉を贈って去るとするかのう」