293 『レオーネイントリギュー』
ミツキは一瞬、言葉に詰まった。
全員がよくやったのでは?
そう言いかけて、改めて批評する。あえてする必要もないと思ったが、聞かれたことそのものが引っかかって、自身の考えを整理する意味でも答えてゆく。
「士衛組では、やはりサツキさんでしょうね。いくらミナトさんがいると言っても、まさかあの騎士団長ジェラルドさんとマルチャーノさんをどちらも撃破するとは。予想以上です」
「だね」
「ええ、まったく」
本音では。
――どちらかは、私とレオーネさんで戦うことになると思っていた。それによって、『ASTRA』との共闘にはなるが、士衛組に大きな貸しができると踏んでいた。それが封じられていたのか……? まだ確証もなく、論理も詰めていない段階だが……レオーネさんはあえて、私になにもさせなかったという可能性は、充分にあり得る。
トップのオウシはライバルのスサノオと戦うこと必須。
強さに特化した『バトルマスター』ロメオはコロッセオに釘付け。
その他を鑑みれば、あの二人と戦えるほどの残るカードはレオーネのみ。
戦うチャンスが巡ってくるのは自分たち。
そう思っていた。
レオーネと自分の二人なら、ジェラルド騎士団長だろうとマルチャーノだろうと撃破できると思っていた。
特に、サツキとミナトに花を持たせるためには、より表立って名前を出すであろうサヴェッリ・ファミリーを倒すのがベスト。アルブレア王国騎士は自分たちの名前は出したくないし、宗教側は名前すら出さないからだ。
だから、サツキとミナトが倒すのはマルチャーノ。残るジェラルド騎士団長をレオーネとミツキで倒すことになる。
そうなるのが自然なはずだった。
だが、そうはならなかった。
サツキとミナトはジェラルド騎士団長を先に倒し、あまつさえマルチャーノまで倒した。
今回の敵の首領は二人いて、そのどちらかに専念しても簡単には勝てないほどの強敵だったことは明白なのに、双方を打ち破ってしまったのだ。
完全に想定以上の活躍をされた結果である。
本来予想された自分の活躍を、掻っ攫われた気分だった。
こうなるようレオーネが誘導していたとしたら……?
そんなことが頭をよぎったが、ミツキは思い直す。
――いや。いくら『千の魔法を持つ者』と称されるレオーネさんでも、こんな運要素の強い激流に放り込まれて、それでもサツキさんとミナトさんに託せるわけがない。そんな二度のマッチアップを用意するなんて、魔法と頭脳だけでやれる所業じゃない。が……仲間の調査能力を信頼してそんなプランを描くことは、あり得ない話じゃない。もしそれをするなら、メリットは?
自問自答。
その答えは明白だ。
――あの二人に二つの首を取らせて大英雄にすること。明日の裁判を見越せば、これ以上の宣伝材料はない。成功率が高ければ実行も悪くないが、あれだけの強敵を相手に二連戦は危険な賭けだ。危険過ぎる。
ジェラルド騎士団長。
マルチャーノ。
どちらか一方だけでも、戦うのは命がけのはずだ。
――あの強敵二人を相手に二連戦して勝ち抜くと、レオーネさんは信じていたのか? だとしたら、それほどの原石なのか? 城那皐と誘神湊にはそれだけの価値と可能性があるのか?
原石。
磨かれていない素材。
可能性を秘めた逸材。
そこまで思いを巡らせて、ミツキはメガネを中指で押さえた。
――大将がこだわるミナトさんには、あるいはその価値はあるかもしれない。だが、サツキさんの評価は保留しよう。情報が足りない。これ以上は想像による評価になる。自重しなければ。
しかし。
――しかし、だ。未だこんな小さな組織でありながら、なぜかアルブレアの姫君たちや『万能の天才』玄内さん、そしてミナトさんまでをも率いる、不思議な引力。しかも、『ASTRA』のトップ・ヴァレンさんが加入を決めるほどで、その上、レオーネさんが彼を見込んでいるとすれば、ただ者ではないと考えたほうが筋が通る。それに、レオーネさんは賭けをするのも好きな人だ。
ギャンブル性のあるカード魔法を使うくらいである。
――レオーネさん。今回は、あなたに出し抜かれと思っておきましょう。
ミツキは、背中側にいるレオーネに聞いた。
「サツキさんをどう思いますか」




