289 『クリーンアップ』
ルーチェが出発すると。
サツキたちはヴィアケルサス大聖堂の外に出るため歩き出す。
その間もチナミはサツキの腕を固定しようとしてくれて、ずっとくっついたままだったので、
「チナミ、そのままだとチナミが歩きにくいだろう」
「いいえ。忍びの修業と比べれば、歩きやすいくらいです」
やはりチナミが歩きにくいだろうということで断った。
階段の前まで来て、ヒヨクが聞いた。
「お疲れ様、二人共」
「わかってると思うけど、オレとヒヨクはリョウメイさんの指示でここに来た」
ツキヒがそっけなくそう言うと、ヒヨクは笑顔で、
「まあ、指示がなくてもボクたちは助けに行ったんだけどね。ただ、なにが起こったのかを知ることも、どこへ行けばいいのかも、リョウメイさんがいなかったらわからなかった」
「ありがとう。二人の協力がなかったらもう少し時間がかかったと思う」
サツキがお礼を述べる。
ミナトもそれに同意した。
「だねえ。感謝しますぜ、お二人とも。リョウメイさんにもあとでお礼を言わないといけないなあ」
「リョウメイさんにも考えはあったみたいだし、お礼なんて気にしなくて良いよ」
と、ツキヒは言う。
「へえ。狙い?」
「おそらく、士衛組に恩を売りたいって話」
「でも、ミナトくんとサツキくんのことは友だちだと思ってるからこそ協力したんだとも思うよ」
ヒヨクはそうフォローする。
これは、ミナトもリョウメイを友だちと思っているから「うん」と笑顔でうなずくのだった。
二階から一階へと降りたところで。
玄内に魔法を没収してもらって、ルーチェが戻ってきた。
「お待たせいたしました。ルーチェ、ただいま戻りました」
「おかえりなさい。まだ大聖堂の中ですよ。オリンピオ騎士団長のところにはいっしょに行きましょう」
リラがそう言って、一行はヴィアケルサス大聖堂を出た。
大聖堂の前では、戦いもほとんど終わっていた。
オリンピオ騎士団長を中心に、原則捕縛の形で始末をつけていたのだった。
サツキたちが外に出たら、オリンピオ騎士団長たちもこれに気づく。
「おお! これは士衛組のみんな! それに、ヒヨクくんとツキヒくん。話はリディオくんから聞いているよ。よくやってくれた。マノーラを代表して、私からお礼を言わせて欲しい。本当に、どうもありがとう! キミたちのおかげで街は守られた!」
「ボクたちはなにも。頑張ったのはサツキくんたちです」
ヒヨクは人当たりの良さでそう言ってくれるが、二人のアシストもなければもっと苦戦していた。
「俺たちだけじゃなく、ヒヨクくんとツキヒくん、それからオリンピオ騎士団長たちマノーラ騎士団や『ASTRA』のみなさんがいたから、士衛組も戦えました」
「いや、我々は今回、力不足を実感したよ。士衛組の活躍は街中に伝えていかなければならないね」
実際にもアルブレア王国騎士を率いるジェラルド騎士団長とサヴェッリ・ファミリーのボス・マルチャーノを倒したのはサツキとミナトなのだ。
マノーラ騎士団は士衛組に比べてあまりに情けなかったとオリンピオ騎士団長は思う。
その思いは新人隊士のエルメーテも同じだったようで。
「不甲斐ないです。僕に力があればと強く思います。だから、強くなります」
若き騎士はそう誓う。
それから。
スコットとカーメロも、
「このオレとカーメロに勝ったのだ。それくらいやってもらわねば困る。どうやら、我々の仕事も終わったようだな。悪いが、先に失礼する」
「パーフェクトだ。勝って、生きて戻ってきた。それ以上のことはない。キミたちの未来には期待しているよ。では、ボクもここで」
と言ってくれた。
さっさと帰る二人を、サツキとミナトもあえて引き止めなかった。あとは事後処理だけだ。お礼だけ言って背中を見送った。
また、ブリュノやシンジも、
「傷だらけになったサツキくんも、無傷で生還するミナトくんも、とても麗しいよ。激闘を制したキミたちを祝福する」
「やったね、サツキくん! ミナトくん! みんな!」
と労ってくれた。
戦いが終わったことを察知し、スモモがアシュリーを連れてやってきた。戦闘向きじゃない二人は、広場前の物陰に隠れていたのだ。
「お疲れ、士衛組のみんな。わたしの情報網によれば、リディオくんを介して各地で戦勝報告がされているみたいだね」
「サツキくん、みんな。無事でよかったよ。大丈夫?」
スモモが状況を話すのも構わず、アシュリーはサツキに駆け寄った。