288 『トランスファーメイド』
リラからすれば、本当に大変な一日だった。
サツキとデートだと意気込んでお出かけして、リョウメイに再会して、スサノオたちに邂逅すると、空間の入れ替えという予想外の事件が起こってサツキとは離れ離れになり、アルブレア王国騎士とサヴェッリ・ファミリーがマノーラを襲撃したのだ。
彼らの背後には、翌日裁判で争うことになる宗教側がいて、そんな三重の敵と戦うことになり、そこに鷹不二氏も絡んできて、何度も空間の入れ替えに遭い翻弄されてきた。
その戦いがようやく終わったのである。
「ああ。大変なことになったな」
「サツキ様、今回は……」
中途半端になっちゃったのでまた今度、と言おうと思ったとき。
突然――。
メイド服の少女、ルーチェが姿を現す。
事前に報せはあったが、それはサツキに対してのみであり、リラの知るところではない。だからサツキとミナト以外には突然のことだった。
「ルーチェさん!?」
「ええ!?」
リラとクコが驚いているが、ルーチェはニコニコと挨拶した。
「失礼いたしました。ルーチェです。リディオちゃんからお話はうかがっています。ここからはワタクシがサツキ様の『羽』になります」
「出たわね、ルーチェ。あんた今までなにしてたのよ?」
ヒナに詰め寄られても、ルーチェは笑顔を崩さない。
「諸用がありまして、ヴァレン様とマノーラの外に出ておりました。すみません。本当は駆けつけて共に戦いたかったのですが、ここはよっぽどのことがない限り士衛組に活躍を譲るべき舞台であるとヴァレン様がおっしゃいまして」
「こっそりフォローしてくれてもよかったじゃない」
士衛組に活躍を譲るべき。
そう言うのも、ヒナの父の裁判が明日に控えているがゆえのことで、娘であるヒナが士衛組に属していることがその因になっている。
もし士衛組が活躍すれば、ヒナの父の印象もよくなり、裁判がやりやすくなるからだ。
ヒナにはそれもわかるので、これ以上は突っ込まずに腕を組む。
ルーチェはサツキに向き直る。
「これからの戦後処理はどう致しましょうか。サツキ様が代表してマノーラ騎士団の団長・オリンピオ様への報告さえしていただければ、あとの宣伝や街の整備などは我々『ASTRA』がしておきますが」
この度の戦いは、士衛組が治めた。
そうした報告をする相手はマノーラ騎士団だけでよく、あとは『ASTRA』が噂を流せばいい。
宣伝のための挨拶をする場所の用意もないため、サツキが出張る必要はないのだ。
だが、サツキは言った。
「オリンピオ騎士団長への報告が済んだら、士衛組みんなでマノーラ騎士団のお手伝いをしようと思います」
「それはよい宣伝になるかと」
「まずはマルチャーノさんをどうするかですが」
「はい。それならば、ワタクシが玄内さんの元へ届けておきましょう」
「お願いします」
「はい。任されました」
玄内には、他者の魔法を没収する《魔法管理者》がある。
しかも没収した魔法は玄内の管理下に置かれて、自由に使える。その自由さは凄まじく、魔法を他者にそのまま譲渡することも、玄内が改良してから譲渡することも可能なのである。
『魔法学の大家』であり『万能の天才』と称される玄内にしか許されない異能だ。
つまり、玄内に引き渡せばマルチャーノは以後魔法が使えなくなり、玄内はまた一つ強力な魔法を手に入れられる。事件再発防止と玄内の学習の一石二鳥の策になる。
「ワタクシはリラ様の元へならいつでも戻ってこられますので、先にこの大聖堂を出ていてもらって構いませんよ」
「わかりました」
ルーチェはマルチャーノを《出没自在》で玄内のところへ連れて行く。




