286 『ユースフルウイング』
「サツキ兄ちゃん、今大丈夫か?」
『ああ』
リディオは、『ASTRA』の情報局をラファエルと二人で担う情報官である。
二人は『ISコンビ』とも呼ばれ、『ASTRA』には欠かせない存在だった。
魔法《電送作戦》によって通信ができ、これはスモモの手紙よりも直接脳に信号を送って会話できるため、相手側から発信できないことを除けば、筆記しない分伝達速度で上回る。
どちらも一長一短だが、リディオが世界中に配下を持つ『ASTRA』で情報局を担えるのはこの魔法があるからだ。
「そっちはどうなってる?」
『マルチャーノさんを倒した。戦いは終わった』
「おお! うおおお! 倒したのか! すごいぞ! さすがだな、サツキ兄ちゃん!」
隣のラファエルと顔を見合わせ、リディオはその報せを喜んだ。
「ほかのみんなは無事か?」
『大丈夫だ。みんなもそれぞれの持ち場の戦いを終えようとしている。いや、終わったのか。みんなが来た』
「そっか! サツキ兄ちゃん、お疲れさま! それでこっちの用事だけど、ルーチェ姉ちゃんが今からそっちに行って、サツキ兄ちゃんの羽になってくれるってさ」
さすがは『ヴァレンの羽』。
ミナトより広域を瞬間移動できる魔法の使い手。
街単位で移動でき、それ以外にも設定したポイントを複数箇所創れる。そのポイントは固有の座標を持つ場所のほか、人物にも適用できる。場所は五つ、人物は三つ登録できるのだ。しかも、ヴァレン、レオーネ、リラはその三つとは別に固定で登録されており、『ASTRA』の拠点・ロマンスジーノ城も第六の地点として固定で登録されている。元々は登録できる地点も少なかったのを、玄内が改良してくれたおかげだった。
それほど自在な移動が可能なのである。
これ以上の羽はない。
あるとすれば、狭い範囲だけなら脅威的な精度で移動できるミナトか。あるいは、同系統の術者・ゲンザブロウもこのマノーラにおいてその役割が可能な術者になるが、サツキは彼の魔法を知らない。
『助かる。頼みますと伝えてくれるか』
「おう!」
『あと、戦いが終わったことを各方面に連絡していって欲しい。このあと、広場前に待機しているスモモさんにも話をするから、それまでには少なくともマノーラ騎士団やオウシさん、ヒサシさん、ミツキさんあたりにはリディオが先に報告を』
「わかった! 急いでやっておく! ほかにはなにかあるか?」
『いや。あとはまた連絡をくれると助かる』
「了解だ! またな!」
リディオは通信を切った。
ラファエルが口元を緩めて、
「すごいな。士衛組」
「だな!」
「それでこそ士衛組の皆様ですね」
ルーチェはニコニコとその話を聞いていて、ヴァレンも嬉しそうに微笑んだ。
「アタシが見込んだ子たちだもん、勝つに決まってるわ。さあ、ルーチェ」
ヴァレンが促すと。
はい、とルーチェがリディオとラファエルとヴァレンに小さく一礼した。
「それでは行って参ります。《出没自在》、リラ様」




