283 『オールカウンター』
マルチャーノを護衛していたアンデッドからは、魔力反応が消え去っていた。
ミナトに負けたと確信したときに、マルチャーノは《屍術歌劇》を解除したということだ。
それは、《緋色ノ魔眼》で魔力反応を視認できるサツキには見通せた。
――護衛を切り捨てたか。よくやってくれた、ミナト。ここまですべてお膳立てしてもらったら、最後は俺がやるしかないよな!
サツキは突き進む。
使い物にならなくなった左腕は痛むし邪魔くさかったが、これを切り落とすわけにはいかない。
刀を右手だけで持って銃弾を斬るほどの余裕は、今のサツキにはない。
だから、サツキはマルチャーノの銃撃の中を素手で突き進むしかなかった。
よけられるものを紙一重でよけ、致命傷にならないものは受ける覚悟で捨て身の前進を試みる。
「実に見事だったぞ! 誘神湊、貴様はすぐに、城那皐を倒したらすぐに、殺してやるからな! さあ! 城那皐よ、貴様の最後を見せてくれ! どれほどの価値があるのか、オレに見せてくれ!」
そう言いながら、マルチャーノはサツキを撃つ。
何発も銃撃して、サツキが来るのを待つ。
待つ間にも、《屍者憑依》を使用した。
――《屍者憑依》! 今度はなにが来る? 銃弾がなくなった。ここで……爆弾?
銃弾がなくなると、マルチャーノは銃を投げ捨て、ナイフを投げた。
おそらくこのナイフは爆弾になっている。
ナイフ爆弾。
――やっぱり!
飛んでいる途中で、サツキの目の前で爆発した。
これを防ぐのは難しいが、捨て身のサツキにはくぐり抜けるメンタルがあった。
――銃撃よりもキツい!
銃弾は五発、すでにくらっていた。
だがその五発よりも、ナイフ爆弾の一発にはパワーがある。
――でも、《波動》を飛ばして弾くわけにはいかない。練り込んで、溜めてきたこの力は、拳で直接ぶつけるまでとっておかないと!
サツキはまたパチッと目を見開く。
――次は!
見た。
マルチャーノの変化を、《緋色ノ魔眼》で見た。
――また別の人間を憑依した! しかも、これを俺は知らない! まとう空気がこれまでともまた違う! 今までで一番冷たい! 冷徹な目だ!
どんな魔法を使うのだろうか。
わからない。
それでも進むしかない。
二人の距離もどんどん縮まってゆく。
そしてついに。
五メートルを切り。
サツキは右の拳を引いた。
マルチャーノもまた、左の拳を振りかぶった。
「《砲桜拳》! はあああああああ!」
「だああああああ!」
拳と拳がぶつかり合う。
瞬間、マルチャーノは不敵に口元をゆがめた。
――オレは今、《オールカウンター》を使った! すべての魔法効果を倍返しできる技だ!
これこそが切り札。
今、マルチャーノが《屍者憑依》で憑依させている死者の魔法。
――貴様の《打ち消す手套》も跳ね返す! それによって貴様の使う《波動》を無効化するのだ! もし効果を倍にした《打ち消す手套》でも《波動》を跳ね返せなくとも、《波動》を倍返しにすればそれで済む話だ!
すべて計算ずくの一撃であり、そのための切り札だった。
拳と拳は、マルチャーノの計算通りにぶつかり合って……。
結果――
「はああああッ!」
「なにィッ!?」
サツキの拳が《オールカウンター》さえも貫通して、《波動》を込めた一撃がマルチャーノの拳を砕いた。
 




