263 『ナイフギミック』
次にミナトが姿を見せたのは、たったの一秒後だった。
隣にはサツキがいる。
服はボロボロだが、マントで覆って隠せている。マルチャーノにはまだサツキの身体の具合はわからない。
「ほほう。無事だったか」
「おかげさまで」
と、サツキは無愛想に返す。
「余程運がいいか、あるいは、余程おかしな魔法を持っているらしい」
「さっそく、俺の分析結果を話しましょう」
マルチャーノの反応を無視して、サツキは話し出した。
「まず、マルチャーノさんに憑依している何者かの魔法は、物体を爆発させる類いのもの。生きている人間も対象にできるかは不明。一度目の爆発は、俺の近くに転がっていた魔法戦士のアンデッドがその魔法によって爆破されたものだったが……。二度目は、マルチャーノさんが投擲した物体――ナイフ。銃撃の後すぐさま投げた。そして時限制で爆破した。ちなみにその時限制は、とある仕掛けが必要となる」
仕掛け。
時限制にするための条件。
「それは、傷です」
「へえ。傷」
と、ミナトが相槌を打つ。
マルチャーノは拍手した。ゆっくりと、上の者が下の者を冷たく褒めるように、手を叩く。
「なかなか悪くない処理能力だ。だが、このくらいはやってくれないと困る。レオーネとロメオの代替品になどなれない。それで、城那皐」
これまでの狂乱するような喜び方ではなく、落ち着きがある。性格が変わったと言ってよいのか。憑依している別人の性質が混ざっているせいかもしれない。まさに別人に成り代わっている。
だが、彼の元々のクールな頭脳と性癖は一貫している。
そんな感じだった。
「傷はナイフでつけたもの。傷の長さで爆破までの時間が変わる。その際、つけた傷は導火線のように短くなって、爆破時には消える。爆発の規模は傷の深さという可能性も考えたが、見えてこなかった。ただ、魔力の大きさが違った。よって、込めた魔力の大きさで変わるだけ」
「なるほど、いいぞ。悪くない洞察だ。どこにも間違いはない。つまらないほどに正しい。オレはそんな貴様の頭脳そのものには興味がないが、いい目をしてるのは再確認した」
「……」
ただ。
――わからなかったのは、ナイフなどの物質の爆弾化がその魔法の性質であるほか、人体さえ爆弾化できるのかという点。アンデッドは死体だから物体と同じ扱いなのか、人体も可能だから爆弾化したのか。それが不明。それと、今のマルチャーノさんに切りつけられたらその瞬間に爆破されてしまうのか。そんな直接的な効果も付与できるのか。
悠長に攻撃を受けるわけにはいかないが、データが足りない。データが欲しいところだった。
「なるほどねえ。爆発の規模も大きいし、銃の狙いも見事だし、煙幕までうまく利用してくるしで、よくできたシステムだよね」
ミナトが感心する。
「煙幕はアンデッドの爆発による余波みたいなものだろう。むろん、煤煙が上がるように仕掛けておいたようだが」
「いやあ、まさかアンデッドが爆発するなんてね。思わなかったよ」
サツキもまるで予想だにしなかった爆発であり、そのためにサツキは右上半身を一度は失い死にかけたのだ。
「爆発を利用した戦術ってのもおもしろい。僕は剣士だから、戦いにくいなァ」
しかし。
悠長にミナトがそんなことを言っているが。
マルチャーノは次の攻撃を始めようとしていた。
「では、これはどうかな?」




