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255 『スロウケイン』

 皇帝のアンデッドは杖をサツキに向けた。


「さあ、始まりだ」


 言ったのはマルチャーノ。

 アンデッドは言葉など持たない。

 杖の頭がサツキに向けられると、杖は不思議な光を放った。

 この杖の形状は先端に行くほど細まるが適度な直径を保ち、杖の頭の部分には宝玉のような青く丸い玉がある。その玉のすぐ下を持ち手にしていた。

 だから、杖の先端よりも宝玉のほうが相手には向けやすい。少ない動きで向けられる。

 サツキはこれを避けようとしたが、完全な回避はできなかった。


 ――杖の頭……あの青い玉を向けられると、発動する魔法と思われる。避けたかったが、難しかったみたいだな。


 青い玉が光ったのが魔法発動の合図だろうか。


 ――魔法は発動した、と思う。その効果は……?


 自身の身体の隅々にまで意識を広げてみるが、実感が湧かない。


 ――実感のなさは、俺がまだ身体を動かしていないからか。マルチャーノとアンデッドの動きから目を離せない中で、迂闊な動きはしたくないが、試さないことにはわからない。


 皇帝のアンデッドは杖の魔法を発動したからであろう、サツキの次の行動を待つようにしている。


「これは……」


 つぶやく。

 かすかなつぶやきだった。

 おそらくマルチャーノには聞こえてもいない。


 ――動きが、遅くなるんだ。


 サツキは一歩前に踏み出した。

 だが、その一歩がものすごく遅く感じられた。

 実際にも遅かったことだろう。


 ――遅さは、通常の五倍ほどか。五倍の時間がかかってしまうのか。これで戦うのは厳しそうだ。


 マルチャーノはサツキを無表情で刺すように見て、


「やれ」


 と指示を出した。

 声にせずともアンデッドを動かすことくらいはできる。

 あえて口に出したのは、そこに意味があってのことではない。ただサツキを観察しているからだ。ただサツキをジャッジしようとしているからだ。サツキの価値を見定めようとしているからだ。

 アンデッドは杖を振り回し、同時に、器用にも腰の短剣を引き抜き、二つの武器で攻撃を仕掛けた。

 このアンデッドは優れた肉体を持っていた人間だ。今でも、アンデッドでも、人間と言えるかはわからないが。

 優れた肉体を持っていることは、未だに変わらない。

 その肉体での攻撃は素早かった。

 サツキが対応しようとしたときには、二つの武器はどちらもサツキを殺すための軌道を描き、サツキを仕留める寸前まで来ていた。

 杖はサツキの心臓を貫くように突き刺す動きで。

 短剣はサツキの首を切り裂く動きをしていた。


「くっ」


 それでもサツキは動いた。

 無理矢理、己の身体の限界を超えて対処しようとしたわけではない。

 むろん、避けるための最速を成すための手順を踏んでいる。


「ほう。避けるか」


 ギリギリ、サツキは避けることができた。


 ――あ、危なかった。


 杖の先端は心臓からずれて肩を突き、短剣はあごを切ったが、傷は小さい。


 ――警戒のため、構えを解かずにいてよかった。


 サツキの構えは、左手が身体に近かった。

 この左手で、自分の身体のどこかを触れれば、サツキならば魔法を解除できる。

 ロメオにもらった《打ち消す手套(マジックグローブ)》には、魔法効果を打ち消す効果がある。

 コロッセオのシングルバトル最強の座を象徴するロメオの魔法が《打ち消す拳(キラーバレット)》であり、これを魔法道具化したものが《打ち消す手套(マジックグローブ)》なのだ。

 そのグローブで身体に触れて、アンデッドの魔法を解除し、すぐさま避けたというわけだった。

 たったそれだけの工程でも、アンデッドの身体能力を考えれば避けるのがギリギリになってしまい、結果、サツキはあごから血が出た。その程度の傷で済んだとも言えるが、備えは甘かった。

 続くアンデッドの攻撃に、サツキは剣で応じてゆく。

 性能の異なる二つの武器を平然と使いこなすアンデッドの技は見事で、サツキは剣での処理にすぐ限界を感じた。


「まずい」

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